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「失礼します」
そこには休憩でもしていたのか、丸椅子に座ってなにかを飲んでいる監察医――瀬奈の姿があった。
「麗那ちゃん!」
「事前に電話、しましたよね?」
滝坂は手前にある丸椅子に座りながら、思わず尋ねた。
「うん! 誰だか分からなかったから。……それで、マンションで発見された頭を殴られて吐血している遺体の検視結果だっけ」
瀬奈は言いながら、マグカップをテーブルの上に置き、デスクに向かうと、いくつかのクリアファイルを確認しだす。
「あった、あった。はい、これ」
瀬奈が再び丸椅子に座りながら、ひとつのクリアファイルを差し出した。
「拝見します」
滝坂は一度断りを入れてから、検視結果に目を通す。
ざっと内容を確認した滝坂は背筋が寒くなった。
「あ、それと、凶器から指紋が見つかったの。指紋はデータベースで調べてみたけれど、該当する人物はなし。初犯ってことだろうね。麗那ちゃんがくる前に、鬼柳君から連絡もらって、親子鑑定しているのだけれど、もうちょっと待ってね」
「獅乃がなにかつかんだってことですよね。勘でしょうけれど」
滝坂は苦笑して言った。
「親子鑑定を言い出したのは鬼柳君だし、もしかしたら、親子かもって思ったんじゃない?」
二人の会話を遮るように白衣に入れていた瀬奈のスマートフォンが鳴った。軽快な音だった。
瀬奈がそれほど長くない指で、画面をスクロールしていく。
「親子鑑定の結果が出たよ。その内容、二人に転送しておくから、後で確認よろしく~」
「あ、いけない。瀬奈さん、今回の遺体どう感じましたか?」
つい話を終わらせてしまいそうになった滝坂が、慌てて尋ねた。
「金属バッドで精確に殴りつけている。まるで、投げられた球を精確に当ててかっ飛ばす打者みたい。もしかしたら、野球経験者かな。それに、かなり強く殴られているし、躊躇いというものを一切感じなかった。犯人は本気で、被害者を殺そうとしたのは確かだと思う。哀しいよね、そこまで、殺すしかないまで追い詰められてしまうと」
「哀しいと言えば……」
滝坂は獅乃でさえ知らなかった、幼いころの殺害事件について、話した。
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