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「そんなことがあったんだ……。鬼柳君も当時まだ子供でしょ? そりゃあ、心を閉ざしたくもなるよね。麗那ちゃんも納得したんじゃない? 殺人事件にしか首を突っ込まない理由と、感情を爆発させる理由。今回だって、怒っていたんでしょう?」
滝坂は苦笑しながら言った。
「ええ、とても。それでも、獅乃は誰にも弱音を吐いたりしないんです。あんなに不器用で、危なっかしいのに。心だって、ぼろぼろのはずなのに。強い、と思うんです。でも、なんでもかんでも、独りで抱え込んでしまったばかりに、自分の痛みに鈍くなってしまったのではないかと。私も、いつか、獅乃に自分の過去を、話さなければいけない。……そう思っています」
瀬奈がふふっと笑いながら言った。
「話すと、ちょっとだけ、楽になるかもしれないよ? それが自分の過去ならなおさら」
滝坂は苦笑する。
「獅乃の反応が気になりますがね」
瀬奈はにっこりと笑った。
「鬼柳君はああ見えて、人の痛みに寄り添える人だから。話、聞いてもらえると思うよ」
滝坂は頭を下げた。
「ありがとうございます。お仕事、お疲れ様でした。今後の捜査に役立たせていただきます。……では、失礼します」
滝坂が言うと、去り際、瀬奈は笑みを見せた。
その様子にふっと笑みを浮かべた滝坂は、警視庁に向かった。
そのころ獅乃は自分のデスクに今回の捜査資料を広げ、瀬奈から送られてきた親子鑑定の結果のメールを眺めていた。
――これで裏は取れた。後は、被害者の身元が分かれば。
獅乃は茎わかめを取り出してつまむと、コーヒーを飲みに席を立った。
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