厄除け札の裏側

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厄除け札の裏側

 駆け出しの映像作家で友人のAは、ある大学の映像スタジオの指導員の仕事を引き受けた。映像関係を学ぶ学生に機器の操作を教えつつ、スタジオ管理もするという業務だ。  なんでも前任者が急に辞めたそうで、かなり急ぎの打診だったという。  学生らの間では、そのスタジオは「出る」と噂になっていたそうで、音声に不可解なノイズが入るなど、こういう場ではありきたりな話があるらしかった。そのためか、壁面に貼られているウレタン製の吸音材に、厄除札が一枚しっかりとピン留めされている。  実際、制作していると音声に原因不明のハムノイズが生じてしまうことがあった。心霊話にはあまり関心がなかったAだが、ノイズへの対処はせねばならない。  Aはさっそくケーブルや電源の導線を再考し、コネクタを研磨剤で磨くなどの処置をする。前任者は、どうやらその辺りに無頓着だったようだ。それで状況は随分と改善され、学生達は喜んだ。  そんなことがあってから数ヶ月後、学生のB君が 「もうこれ、いらないっすよね」  と言って、厄除札を吸音材ごと外そうとする。  とくに止める理由もないのでそのまま傍観していると、ベリッという面ファスナーの音とともに、お札のある吸音材があっさりと外れた。  その瞬間……  Aは頭部に鈍器で殴られたような衝撃を感じ、膝からガクンと床に倒れこんだ。周囲がグニャグニャと回って起き上がれない。なんとか首を上げると、その時スタジオにいた四人の学生も、皆その場に倒れこんでいる。なかでもB君は白目をむいて、釣られた魚のようにピチピチと全身を痙攣させている。  何だか知らんが、これはまずい。  Aはすぐにドア付近の壁面にある内線電話へと這いずるように進む。 「ぶばっ」  と嘔吐するが、今はそれどころではない。自らの吐瀉物をかき分けるようにして鉛のように重い体を引き摺りながら、Aは何故か、引き継ぎのために一度だけ会った前任者が、帰り際にボソっと言った 「すまんな。でも、こうするしかないんや……」  という台詞をぼんやり思い出していた。  内線で事務局に連絡すると、すぐに救急車が来て病院に運ばれた。幸い皆、病院に着く頃には症状が回復しており、B君のみ念のため一日の検査入院ということになったが、他は全員その日のうちに帰ることができた。食中毒を疑われたのか、病院では根掘り葉掘りと食べたものや食事の場所を聞かれたが、とくにこれといった診断はなく、B君も翌日には退院したという。  一体、なんだったんだろう。  数日後に再びスタジオに出勤したAは、やはり厄除札のことが気になって、外された吸音材を調べてみた。  B君が外して、その場に落としたままになっていた吸音材の裏側には、妙な形に切り抜かれた和紙と、人か獣か何かの毛の束が縫い付けられている。見る限り、けして古いものではなさそうだ。文字のようなものも書かれているが、判読はできない。厄除札自体さほど古いものではなかったから、これらを貼ったのは、おそらく前任者だろう。  Aは前任者に事情を聞こうとしたが、教わっていた電話番号はすでに使われていないようで、連絡の取りようがなかった。大学の事務局にも尋ねてみたが、どうも大学側でも前任者の所在はつかめていないようだった。  厄除札のみならばともかく、裏側にあった得体の知れないものから、Aは、これは何か呪術的なものなのではないかと考えるようになったという。 「おまえ、こんなん詳しそうやん?これ、どう思う?」  と、その吸音材や厄除札、さらには裏面のよくわからないものなどが写った写真を見せながら私に問うAは、この件以来、とにかく偏頭痛が酷いそうだ。
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