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「えーっ? サロメぇ? サロメって、あのサロメ?」
演劇部顧問の佳那寺凛先生が、すっとんきょうな声をあげた。男みたいな物言いで、色気もなにも感じられない。同じ五十歳でも、国語の玉木先生はおしとやかで優雅なのに、佳那寺先生ときたら、もはやオヤジのようだ。
まあそれはともかく、先生の反応は充分に予想していたことなので、ぼくは落ちついて返事する。
「はい、オスカー・ワイルドのあの『サロメ』です」
「あのサロメって……平然と言うけど、お前ら、わかってんのか? 高校生の演劇コンクールなんだぞ? なんでそこにオスカー・ワイルド、持ってくるんだ? 過激すぎるんじゃないの?」
〈過激〉と〈すぎる〉は言葉がダブっていると思うのだが、指摘はしない。
「いえ、先生、『サロメ』といっても、劇中劇として、ほんの一部を使うだけです。そもそも、今回の演劇コンクールは、二十分以内の短編が対象です。とても『サロメ』一本まるごと上演する暇はありません」
来月、ぼくたちの県で、高校生短編演劇コンクールが開かれる。ぼくたち喜多嶋学園高校の演劇部も、もちろん参加する。申し込みの締め切りも近づいてきたので、上演する演目について、顧問の佳那寺先生に許可をもらおうとしているのだった。
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