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「思い出しましたか?」
背後で女の子の声がした。振り向くと、そこには髪の長い美女──橋本環奈が立っていた。
「私はあなたに助けられて、命をつなぎました。でも、その代わりにあなたが……。さっきは飲み物を買ってくれたのに、受け取れなくてごめんなさい。死者からもらったものを口にすると、私も死んでしまうから」
「……死んでいたのは僕の方だったのか……」
なんだか、妙に納得した。僕は熱い砂に膝をつく。
「そうか。そうだったのか……」
ひと夏の休みが永遠になっていたことも忘れて、僕は──。
涙が砂に一つ、二つとこぼれて消える。
それは悲しみの涙なのか、自分でもよく分からなかった。
「遥真さん」
環奈がそっと僕の隣にしゃがみ込んだ。
「さあ、デートしましょう。あなたが消えかかっている。私はずっとあなたに会いたくて、探していたんです。今日が多分最後になるから……あなたのそばにいさせてください。命の恩人の、優しいお兄さん」
環奈が手を差し伸べる。
そこに手を伸ばす僕の手は、うっすらと透けている。
ワケありな彼女がどうやって僕を見つけ出し、僕と接触することができたのか、僕にはまだ分からない。
聞いたら答えてくれるだろうか。
それとも、そんなことは無視して──今度こそ最後の夏を楽しもうか。
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