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お互いに、だんだん息が熱くなった。
口の中の唾液が零れて、口の端から糸をひく。
孝也の手が、シャツの間に入ろうとした。
シャツの一番上のボタンが、なくなっていた。
襲われて茂みに押し倒された時に飛んだのだろうか。
俺は、ボタンがなくなったシャツの襟を何気なく広げた。
シャツから鎖骨がのぞき、孝也が噛みつくように、そこを強く吸い上げた。
「ンっ!たかや⋯たか⋯ぁあン!!」
身体がびくびくと跳ねた。
孝也はシャツをめくり上げ、乳首を摘まみ上げる。
触られたことのない場所を触れられて、俺の頭の中は、混乱していた。
息を荒げた孝也の顔が近づく。
瞳の中にうつる、顔。その顔は。
「すみ」
声が震えた。
孝也の手が止まった。
気づいたら、俺の頬には、涙が零れていた。
俺は。
「おれは、すみじゃない」
代わりに、しないで。
心が小さく悲鳴を上げる。
「すみの代わりには、なれない」
小さく呟いた俺に、孝也は、はっきりと言った。
「代わりじゃない。俺が好きなのは⋯⋯みちるだ」
◆◇
ずっと、ずっと好きだった。
入学式の桜の下で、はにかむように笑ってて。
その笑顔がきれいで、頭から離れなくて。
女の子より可愛い顔してる、って女子だけじゃなく、男どもの間でも評判だった。
周りのやつが手を出さないか、心配で仕方がなかった。
クラスの自己紹介で言った言葉は。
「この高校には文芸部があったから来ました」
文芸部なんて部活。ある事すら知らなかった。
三度の飯より本が好きで、文字を書くことが好き。
そんなやつ、俺の周りには今までいなかったんだ。
母さんが、「好きな男性がいるの」って言った時。
何も反対する気は起きなかった。
名前を聞いて、驚いた。そして、嬉しかった。
これで、あいつの目の中に入ることが出来る。
本や字よりも。俺のことを見てもらえるんじゃないかって。
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