5.身代わり

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   お互いに、だんだん息が熱くなった。  口の中の唾液が零れて、口の端から糸をひく。  孝也の手が、シャツの間に入ろうとした。  シャツの一番上のボタンが、なくなっていた。  襲われて茂みに押し倒された時に飛んだのだろうか。  俺は、ボタンがなくなったシャツの襟を何気なく広げた。  シャツから鎖骨がのぞき、孝也が噛みつくように、そこを強く吸い上げた。 「ンっ!たかや⋯たか⋯ぁあン!!」  身体がびくびくと跳ねた。  孝也はシャツをめくり上げ、乳首を摘まみ上げる。  触られたことのない場所を触れられて、俺の頭の中は、混乱していた。  息を荒げた孝也の顔が近づく。  瞳の中にうつる、顔。その顔は。 「すみ」  声が震えた。  孝也の手が止まった。  気づいたら、俺の頬には、涙が零れていた。  俺は。 「おれは、すみじゃない」  代わりに、しないで。  心が小さく悲鳴を上げる。 「すみの代わりには、なれない」  小さく呟いた俺に、孝也は、はっきりと言った。 「代わりじゃない。俺が好きなのは⋯⋯みちるだ」  ◆◇  ずっと、ずっと好きだった。  入学式の桜の下で、はにかむように笑ってて。  その笑顔がきれいで、頭から離れなくて。    女の子より可愛い顔してる、って女子だけじゃなく、男どもの間でも評判だった。  周りのやつが手を出さないか、心配で仕方がなかった。  クラスの自己紹介で言った言葉は。 「この高校には文芸部があったから来ました」  文芸部なんて部活。ある事すら知らなかった。  三度の飯より本が好きで、文字を書くことが好き。  そんなやつ、俺の周りには今までいなかったんだ。  母さんが、「好きな男性(ひと)がいるの」って言った時。  何も反対する気は起きなかった。  名前を聞いて、驚いた。そして、嬉しかった。  これで、あいつの目の中に入ることが出来る。  本や字よりも。俺のことを見てもらえるんじゃないかって。
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