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すみが近づいてきた。
「ね、代わりでいいから」
気がついたら、唇を重ねていた。
みちる、みちる。
俺の頭の中は、みちるでいっぱいだった。
すみは、代わりでしかなかった。
ゴトン、と物が落ちる音がした。
振り向いたら、呆然とした顔のみちるが立っていた。
あの日から、みちるはろくに俺に口を聞いてくれない。
すみと付き合ってなんかいない。
その言葉も、信じてはもらえなかった。
◆◇
「うそつき」
「うそじゃない」
涙が止まらない。どうしたらいいんだろう。
孝也にキスされた唇が熱い。
触れられた体も熱い。
俺は、両手で、子供みたいに目をこすった。
「⋯⋯すみと、キスしてた」
「お前の、代わりだった⋯⋯」
孝也が俺の手を握って、そっとどける。
後悔を含んだ目だった。
「え?」
「お前が欲しくて、すみが代わりでいい、って言うから。お前だと思って、キスした」
何を言われてるのか、わからなかった。
まさか、そんな。
「すみが好きなんじゃ、ないの?」
「違う。ずっと、お前が、好きなんだ!」
髪をくしゃくしゃにかき混ぜながら、孝也が言った。
「ずっと、お前が欲しかったんだ」
孝也が手を伸ばして、俺にキスをした。
「⋯⋯みちる?」
⋯⋯ずっと。
言っちゃいけないんだと思ってた。
「泣くなよ」
許されないんだと思ってた。
孝也を好きな、すみの気持ち。
義兄弟になった、俺と孝也。
自分の気持ちは。
小説の中に書くしか、なかった。
破れたノート。
千切れたページの先にあったのは。
──ずっと口に出来なかった恋だ。
「すき⋯⋯。孝也、好きだよ」
すみ、ごめん。
おれは、孝也が、好きなんだ。
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