6.千切れた先

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   すみが近づいてきた。 「ね、代わりでいいから」  気がついたら、唇を重ねていた。  みちる、みちる。  俺の頭の中は、みちるでいっぱいだった。  すみは、代わりでしかなかった。  ゴトン、と物が落ちる音がした。  振り向いたら、呆然とした顔のみちるが立っていた。  あの日から、みちるはろくに俺に口を聞いてくれない。  すみと付き合ってなんかいない。  その言葉も、信じてはもらえなかった。   ◆◇ 「うそつき」 「うそじゃない」  涙が止まらない。どうしたらいいんだろう。  孝也にキスされた唇が熱い。  触れられた体も熱い。  俺は、両手で、子供みたいに目をこすった。 「⋯⋯すみと、キスしてた」 「お前の、代わりだった⋯⋯」  孝也が俺の手を握って、そっとどける。  後悔を含んだ目だった。 「え?」 「お前が欲しくて、すみが代わりでいい、って言うから。お前だと思って、キスした」  何を言われてるのか、わからなかった。  まさか、そんな。 「すみが好きなんじゃ、ないの?」 「違う。ずっと、お前が、好きなんだ!」  髪をくしゃくしゃにかき混ぜながら、孝也が言った。 「ずっと、お前が欲しかったんだ」  孝也が手を伸ばして、俺にキスをした。 「⋯⋯みちる?」  ⋯⋯ずっと。  言っちゃいけないんだと思ってた。 「泣くなよ」  許されないんだと思ってた。  孝也を好きな、すみの気持ち。  義兄弟になった、俺と孝也。  自分の気持ちは。  小説の中に書くしか、なかった。  破れたノート。  千切れたページの先にあったのは。  ──ずっと口に出来なかった恋だ。 「すき⋯⋯。孝也、好きだよ」  すみ、ごめん。  おれは、孝也が、好きなんだ。
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