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食事の後に、未散とソファに転がってゲームをしていた。
スマホが鳴る。
LINEを見て一瞬驚いたが、未散と母に告げた。
「ちょっと、コンビニ行ってくる」
二人の心配気な顔に笑顔で答える。
「だいじょーぶ!コンビニぐらい一人で平気だよ」
自宅のマンション前は、公園になっている。
ぼくを呼び出した相手が、そこに立っていた。
「退院おめでとう、澄水」
小さなブーケを渡される。
真っ白な花で出来た花束。
「ありがとう」
穏やかな物腰。柔らかな笑顔。
なぜだろう、いつもと変わらないのに寒気がする。
「⋯⋯どうして、ここに?」
「どうして⋯⋯って。こっちのセリフだよ。退院日も教えてくれないなんて」
茶色の瞳がゆらりと揺れる。普段、温度を感じない瞳に熱がこもる。
「未散が教えてくれなかったら、知らないままだった」
大きな手が、ゆっくりとぼくの頬を撫でる。
「俺は、十分役に立っただろ?」
「⋯⋯⋯⋯」
「孝也と未散のこと、全部お前に教えたはずだ。⋯⋯なのに、何が、足りなかったんだ」
声が震える。
同じようなことが前にもあった。
こうして向き合って、もっと激しい声で。
頭がずきずきと痛む。
「澄水。あのとき⋯⋯。許せなかった。未散が、孝也と澄水が付き合ってるって言ったけど、信じられなかった」
たかや⋯⋯孝也。
そうだ、未散の兄になった男。
あいつと⋯⋯キスをして。
頭が痛くて、その場にしゃがみこんだ。
「澄水!!」
すらりと伸びた手が、ぼくを抱え込んでベンチに座らせる。
ぼくは、目の前の男を見つめた。
そうだ、ぼくはお前と付き合っていた。
──ただ、利用するためだけに。
「遠野」
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