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本が三度の食事より好きで、文を書くのが好き。そんな未散は、有名な文芸部のある高校に行きたがった。
高1の時だ。文芸部に入った未散の様子を見たくて、文化祭に出かけた。
文芸部なんて、本が置いてあるだけで、そんなに見る人もいないんじゃないか。そう思っていたぼくの予想は外れた。
文芸部に割り当てられた教室をのぞくと。
OBだという人たちが何人も来て、楽し気に輪を作って話をしている。
他校の学生も来て、未散たち1年生は、呼び込みや部誌を売るのに忙しい。
「部誌は1部300円です。いかがですかー?」
頬を染めて、声を出す未散なんか初めて見た。
隣にいる男と親し気に話している。
胸がズキンと痛んだ。
未散がぼくに気づいた。
「澄水!!」
隣の男が目を剥く。ぼくと未散を交互に見る。
「俺の双子の弟の澄水!こっちは、同級生の遠野」
その時、何を話したのかはよく覚えていない。
ただ、ぼくの頭の中はショックでいっぱいだった。
未散の瞳にうつるのは、ぼくだけじゃない。
未散と父の家に泊まりに行った。
知らない本が増え、未散が楽しげに話す話題が全く知らないものになっていく。
少しずつ不安が広がる。
そして、不安は現実になる。
──未散の心の中に。
誰か、ひっそり入り込んだ奴がいる。
どうしたらいい。
普段から生活を共にしているわけじゃない。一緒にいられる時間も少ないのに。
どうしたら、未散のことをもっと知ることが出来る?
ある日、未散のマンションに行くと、文化祭で会った遠野が遊びに来ていた。
遠野は、優しくて親切な男だった。
未散ほど自分の世界に入らず、自分の知っていることならと穏やかに教えてくれる。
何回か未散の家で会ううちに、気がついた。
遠野がぼくを見る瞳が、どんな熱を持っているかに。
⋯⋯そうだ、遠野がいるじゃないか。
未散は、遠野とはとても仲がいい。
未散とあいつのことを遠野に知らせてもらえばいい。
「ねえ、遠野。頼みがあるんだけど」
──私の願いを聞いてくれるなら、お前の望みを叶えよう。
たしか、悪魔ってそう言って人間をたぶらかすんだよな。今なら、その気持ちが分かる。
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