1.ちぎれたノート

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「あーあ。孝也、なにやってんだよ」 「みちるちん、かわいそー」  わらわらと人が寄ってくる。  やめろ、来るな。  胸の中が熱くて、痛くて。  息が上手くできない。  ぼたぼたと、熱いものが手のひらに落ち、シャツに染みを作る。 「みちる⋯⋯」  すぐ近くで、孝也の声がした。  ノートと、床に落ちた紙をぐちゃぐちゃにつかんで。  俺は、後ろも見ずに駆け出した。 「みちる!待って!!」  確かに孝也の声が聞こえたけれど。  そんなことはもう、どうでもよかった。  授業中の屋上には誰もいない。  校庭からは、トラックを走る生徒たちの賑やかな声。  真っ青な空には真っ白な雲が流れてゆく。  シャツに学生服のまま、コンクリの床に寝転がった。  服は埃や砂だらけ。でも、もう、どうでもよかった。  抱きかかえたノートの間には千切れた紙片が挟まっている。  細かく書いた文字の一部は滲んで読めなくなっていた。  こんなことなら、学校で続きを書こうなんて思わなければよかった。  文芸部の部誌の締め切りまであと少し。  ずっと考えていたシーンが、ようやく書けたのに。  もう、教室には行きたくない。  授業をさぼった。  みんなの前で泣いた。  ちくしょう。  こんな、ぐちゃぐちゃな心を抱えたやつはどこにもいない  世界中で一番、自分がちっぽけでみじめだった。  もう出ないはずの涙がさらに零れた。  ギギィ⋯⋯。  屋上の扉を開ける音がする。 「みちる!」  はあはあと、荒い息をついて。  屋上にやってきたのは、孝也だった。  今、一番会いたくないやつ。  孝也は俺を見つけると走ってきた。 「ごめん!」 「⋯⋯⋯⋯」  俺は寝転がったまま、顔をそむけた。  口なんか、聞いてやらない。お前なんか大嫌いだ。  俺の隣に、孝也がしゃがみこむ。  学生服が埃だらけになるぞ。  お前の母さんが、服の汚れにうるさいのをよく知ってる。  孝也の気配が近づいて、俺の髪に長い指が触れた。  おそるおそる、まるで怖がるように。 「さわんな」  びくりと、手が止まった。  俺は、伏せていた顔を上げた。 「お前なんか、大嫌いだ」  はっとしたように端正な顔が歪み、伏せたまつ毛が震える。  どんな切なげな声を出しても、聞いてはやらない。
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