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文化祭が終わった後。
俺たち文芸部は、とある雑誌のコンテストに全員応募することにしている。これは、文芸部の恒例だ。応募者には全員講評がもらえるので、自分の作品に外部の意見が聞ける良い機会なのだ。
「そういえば、由千たちが、澄水に会ったって」
「⋯⋯ああ。早瀬もさっき言ってた」
「上次さんと一緒だったみたいなんだけど」
「上次?」
「ああ、澄水が前に事故にあっただろ?その時に澄水を車ではねた相手なんだ」
未散が何とも言えない顔をした。
「うーん。いい人なんだけど⋯⋯。どうも、澄水のことを気に入ってるみたいなんだよねえ」
最後は独り言のようだった。
事故。
眩しいライト。
救急車のサイレン。
黙り込む俺を、未散はどう思ったのか。
「そうそう、再来週の連休に、うちに遊びに来ない?作品の最終チェック会しよう」
未散に誘われたので、考えておくと返事をした。
下手に頷くと、孝也に睨まれるのがわかっている。
毎日同じ家にいるのだから、もう少しあいつも心が広くなればいいのに。
未散が考え込む顔をするときに、ふっと澄水と重なることがある。
普段の表情は、全然似ていない。
俺は未散と澄水を間違えないし、孝也も決して二人を間違えはしないだろう。
それでも、その顔に、会えない人の面影を辿りたいと思う時がある。
帰り道。
秋の夕暮れは、日が落ちるのが早い。
冷えた空気は、季節の移り変わりを知らせていた。
少し足を延ばして大型の本屋に行くことにした。
目当ての本が近くの本屋になかったのと、来年の手帳が欲しかったからだ。
手帳は毎年、同じ店で購入している。
バスを降りて、目当ての本屋に向かう。
暗くなった道を街灯の明かりが照らしていた。
歩道を歩いて行くと、人が争う声がする。
道沿いのコンビニを横目で見れば、裏手には駐車場。
奥の暗がりは、通りからは見えにくい。
立ち止まって目を凝らした。
駐車場を出入りする車のライトが、人の輪郭を捉える。
コンビニの壁に押し付けた一人に、掴みかかろうとする二人組。
自分と同じ高校生ぐらいの背格好だ。
ブレザーの制服には、確かに見覚えがあった。
⋯⋯あれは。
考えるより先に、走り出していた。
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