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2.再婚
「お前のせいで、必死で書いた作品はめちゃくちゃだ。俺が書くときは手書きだって、お前、知ってたくせに!!目の前で破るなんて最低!!」
孝也が破ろうとして破ったわけじゃない。頭の片隅で声がする。
そう思っていても、責める言葉が止まらない。堰を切ったように涙が溢れだす。
本当に、馬鹿みたいだ。
「そんなつもりじゃなかったんだ」
孝也が、絞り出すように言った。
「じゃあ、どんなつもりだったんだよ!!」
「だって⋯⋯!お前、毎日、小説ばっかりじゃないか。家に帰っても部屋に閉じこもってばかりで、ろくに話もしないし。そんなに夢中になって何書いてんのかなって⋯⋯」
「お前だって、すみがうちに来たときは、俺なんか関係なく仲良くやってただろ!人のことは、放っておけよ!!」
孝也が目をみはって黙り込む。
俺は唇を噛んで起き上がった。
これ以上、惨めな気持ちにさせられるのは懲り懲りだった。
「もう二度と、話しかけるな」
必死で言った言葉は、情けないぐらい震えていた。
同級生の孝也は、3カ月前、俺の義兄になった。
うちの父親と、孝也の母親が結婚したからだ。
「紹介したい人がいるから」
父と共に訪れたホテルのリストランテ。
微笑んで手をあげる女性の脇に立つ男を見て、本当に驚いた。
会社の異動で、同じ部署になって。
子どもが同じ高校だと知って、子育ての話をするようになって。
お互いに一人で子どもを育ててきた苦労を話すようになって。
優しい女性なんだ。お前にも家族として認めてほしい。
惚気る父を呆然と見ていた。
父が結婚することがショックだったんじゃない。
孝也と兄弟になる事実に⋯⋯驚いたんだ。
C棟4階の左端、図書室の隣に、文芸部の部室がある。
今日はここでさぼりだ、そう決めた。屋上から逃げてきた俺は、部室に行けばいいことに気づいた。
家に帰った方が疲れるなんて、どうしようもない。ため息をついて、奥の古ぼけたソファに横になった。
窓を開ければ、涼しい風が入ってくる。
文芸部の先輩たちが締め切り前の仮寝用に買ったソファは、ぼろくなっても立派に役に立っていた。
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