2.再婚

2/2
前へ
/25ページ
次へ
「みちる」  いつの間に眠っていたのだろう。  心配そうに、声がかかる。 「遠野(とおの)」 「聞いたよ、ノート破かれたって。大変だったね」  サラサラとした前髪の下から覗く茶色の瞳は、いつも穏やかだ。  すらりと伸びた手足、柔らかな雰囲気を湛えた彼。  3年が引退して、文芸部の部長は全員一致で遠野に決まった。 「⋯⋯今、何時?」 「12時半。昼休みになったから、ここにいるかと思って飛んできた」  購買でパン買ってきたよ、と紙袋を見せて笑う。 「遠野、だいすき!!」  起き上がって、遠野にがばりと抱き着いた。 「あついんだけどー」  遠野が笑う。  よしよし、と髪を撫でてくれた。  焼きそばパンにコーヒー牛乳を飲みながら俺は言った。 「今日はもう俺、ここで小説書いたり本読んだりする」 「そうか、わかった」  遠野が授業に戻ると言うので、昼寝をしようと、俺はソファに寝転んだ。 「じゃあな」 「うん」  遠野が出て行こうとした時、部室の戸が、がらりと音をたてて開いた。 「何の用だ?」  遠野の静かな声が響く。 「ここに来れば、みちるがいるかと思って」  ──孝也だ。 「みちるは、そこで寝てる。さっきまで、ずっと泣いてた」  ──え、泣いてないけど。  俺は、慌てて寝たふりをした。 「お前、みちるの小説を破ったって?」 「あれは、わざとじゃ⋯⋯」 「孝也。みちるが今、どんなに頑張ってるか知らないのか」 「⋯⋯⋯⋯」 「もうすぐ、文化祭に向けての特別号を出す。うちの文芸部は有名な作家も出てて、OBたちが部誌を買いにくる。みちるは、部員をひっぱりながら頑張ってるんだ」 「⋯⋯⋯⋯」 「、助けてやれよ」 「⋯⋯わかったよ」  悔しそうな声だ。  普段、もの静かな遠野に、ここまで言われるのは嫌だろう。 「遠野。お前、みちるの世話、やきすぎじゃないのか」 「孝也には関係ないだろう」  遠野の言葉がひんやりと響く。 「すみと付き合ってる、お前には」  すみ。  その名前を聞くだけで、口からドロドロしたものが溢れそうだ。  俺は、寝返りを打つふりをして、何も聞こえないようにソファに耳を押し付けた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

614人が本棚に入れています
本棚に追加