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3.双子
部室で目覚めた時は、下校時刻が近づいていた。
文芸部は、いつも活動しているわけじゃない。
3年が引退した今は、2年の俺と遠野の二人が積極的に顔を出している。
今日は活動日じゃないから、誰も来なかった。
遠野が一緒に帰ろうと、教室に残した鞄を持ってきてくれた。
「元気出して」
優しい一言に、心がほぐれていく。
そうだ、今日は寄って帰らなくては。
夕焼けの中を、俺は駅に向かった。
病院は、駅から徒歩10分の場所にある。
夜間の救急窓口を通り、エレベーターに乗って、7階へ向かう。
淡いグリーンで統一された廊下を歩く人は、まばらだ。
入院病棟の灯りが淡く温かい色なのは、入院している人の心を穏やかに保つためだろう。
奥の部屋から出てきた看護師が、俺の顔を見て、はっとする。
ぺこりと頭を下げて、個室の戸を引いた。
真っ白な部屋。
ベッドの中で静かに寝息をたてる、細い体。
近づいて、そっとのぞきこむ。
わずかに赤みがさす唇。
すみ。
俺は、そっと名を呼んだ。
眠り続ける顔は、俺と全く同じだった。
◇◇
澄水と俺は、一卵性の双子だ。
両親が別れると決めた時。5歳の俺たちは一晩中、泣き明かした。
父の元には長男の未散、母の元には次男の澄水が引き取られると決まった。
未散は澄水で、澄水は未散だった。
離れることなんか考えられない。
ずっとずっと、いっしょだからね。
はなれても、またあおうね。
電話をした。お互いの親の元に、何度も泊まりに行った。
いつも、いつまでも話が尽きることはなかった。
成長するにつれて、少しずつ俺たちは変わっていった。
明るくて、ものおじしない、すみ。
静かで、一人が好きな、みちる。
高2になった時。
うちに泊まりに来ていた澄水が言った。
「ねえ、みちる。ぼく、好きな人ができたんだ」
「え、おまえ、付き合ってるやつ、いるんだろ」
「うーん、いるけどさあ。そのうち別れようと思うんだ。だって、気になるんだよ」
「誰が?」
すみが、ふふふ、と笑った。
「みちるの学校の人。交流祭で会ったじゃない?」
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