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交流祭は地域の人に学校を知ってもらう試みだ。文化祭より小規模だが、誰でも参加できる。
俺の通う学校が見たい、と喜んですみはやってきた。
すみの好きになった人は⋯⋯孝也だった。
そんな孝也が、俺の義兄になるなんて。
「みちる!ずるい。いいなあ、あの人と暮らせるなんて」
「暮らしたくて暮らすわけじゃない。同級生だぞ?全然、嬉しくないわ。仕方ないだろ⋯⋯。俺たちは高校生で、今すぐ家を出て行くわけにもいかないんだから」
「うーん、そっかぁ。ねえねえ、ぼく、しょっちゅう泊まりに来てもいい?」
断る理由はなかった。
すみは俺の弟で、孝也は俺の義兄だ。
孝也とすみは、すぐに仲良くなった。
明るい性格の二人は、ゲームも映画も、好きなものがよく似ていた。
「あ、みちるも一緒にやろう!」
誘われても断ることのほうが多かった。
俺は一人、部屋に籠って小説を書いた。
2ヶ月経った時、すみが言った。
「ぼく、孝也に好きだって言おうと思う」
あの日。
部活が早く終わって、夕飯の材料を手に、家に帰った。
玄関は開いていて、見慣れた靴があった。
孝也と、すみの靴だ。
「すみ、来てるの?」
声をかけても、返事はなかった。
玄関から短い廊下を歩いて、リビングダイニングに入ろうとした時。
「⋯⋯ん⋯んっっ」
甘い声がした。
ドクンと胸が鳴る。
嫌な予感がした。
「んッ⋯ア⋯ンっ」
ソファで抱き合って、唇を重ねる二人。
すみの肩を引き寄せて、激しくキスをする孝也。
蕩けきった顔のすみ。
俺の手から、買ってきた飲み物が落ちて、音をたてた。
「⋯⋯みちる!」
「は⋯ぁ⋯⋯」
「あ⋯⋯おれ⋯⋯」
振り返る孝也の驚いた顔と、すみのぼうっとした目。
俺は、荷物を放って、自分の部屋に逃げ込んだ。
ドアが何度も叩かれたが、耳を塞いで出なかった。
涙が後から後からあふれて、止まらなかった。
次の日から、俺は孝也と口を聞かなくなった。
孝也は、なんとか俺と話そうとする。
でも、俺には無理だった。
話しかけられても無視した。目を合わせることもしなかった。
すみの顔が浮かんで離れない。
孝也が好きでたまらない、と言っている顔。
孝也のキスに、蕩けきっている顔。
⋯⋯同じ顔なのに。
⋯⋯⋯⋯孝也が、口づけている、顔。
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