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人の気配に振り向いた時、見知らぬ男が殴りかかってきた。
男を何とか避けられたのは、父の教えのおかげだ。
「最近は男子だって、襲われることがある」
そう言って簡単な護身術を教えてくれた。
だが、元々が文化部だ。体力はない。相手の脛を蹴って、走って逃げる。
必死で走っても追いつかれて腕を取られ、茂みの中に押し倒された。
相手の目を狙って拳を入れた瞬間、男の体が後ろに吹き飛んだ。
「え!?」
俺じゃない。
吹き飛ばされた男は、道路に倒れたがよろけながら立ち上がった。バタバタと走って逃げていく。
はあはあ、と目の前で息をついていた男が、俺の体を茂みの中から引き上げた。
「⋯⋯大丈夫か?」
「孝也⋯⋯」
目の前には、家にいるはずの孝也が立っていた。
土と木の葉にまみれた俺の身体を、パンパンと掃ってくれる。
「なんで⋯⋯ここにいるんだ⋯?」
「病院に寄ってくるって連絡よこしただろ。一人で夜道なんか歩いてたら、危ないし。すみを襲った奴だって、まだ捕まってないのに」
見に来てよかった。怪我はないか?土を掃いながら、俺の体を確かめ、心配そうに言う。
「でも、俺は男だよ」
「襲われたすみだって、男だろ!!同じ顔してるくせに」
「⋯⋯なに、その言い方!」
二人で揉めている間に警察が到着し、俺たちは交番に行って事情を聞かれた。
あれは、すみを襲った奴と同じだったのだろうか。
孝也がきてくれなかったら、どうなっていたかわからない。
体がぶるりと震えた。
「孝也⋯⋯、来てくれて、ありがと」
「ああ」
二人で夜道を歩く。
何を話せばいいのかも、もう、よくわからなかった。
父母からは、仕事で遅くなると連絡があった。二人が遅くなる時は12時を越える。
灯りのついていないマンションに、孝也と帰った。
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