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 翌日、例の車をぶつけてきた男から連絡があった。今後は保険会社を通して連絡を取り合うだけだと思っていたので面食らった。確かに連絡先を交換していたが、実際に電話をかけて来られるとは思いもしなかった。向こうの言い分としては、事故を起こしたのは営業の外回り中、つまり業務中に起こしてしまった事故であることから、上司が一度お詫びさせてほしいと言っているので受けてもらえないかというものだった。気持ちはわかる。しかし、佐原にしてみればこの上なく面倒なことだった。いくら礼儀とはいえ、そんな自己満足のような謝罪になぜ付き合わなければならないのか。この件に関してもう怒りはおさまっていたというのに腹立たしい。 「もう怒っていませんし、車さえ直ればもういいですから」 「そこをなんとか。上司が是非にと申しておりまして…一度で構いませんのでお時間いただけませんでしょうか」 「忙しくて時間が作れそうにないんです」 「そうですか…もしよろしければ、ご指定の場所まで伺いますのでいかがでしょうか。」  しつこく食い下がる男だ。これ以上押し問答を続けるのも嫌なので、仕方無しに受け入れることにした。今夜の仕事明けに会うことになった。場所は事故の起きたコンビニの駐車場だ。  ほぼ時間通りにコンビニの駐車場に到着すると、すでにそこには例の営業車が停まっていた。こちらには気がついていない様子なので、直接声をかけることにした。運転席側の窓を軽くノックする。 「どうもすみません。ご足労いただきましてありがとうございます」  事故男が車から降りながらそう言うと同時に、助手席からも誰かが出てきた。きっと上司だろう。仕事の出来そうな顔してるんだろうと思いつつ顔を向けると、そこに立っていたのは晴樹だった。 「どうもこの度は申し訳ございませんでした。はじめまして…ではないですよね?」  言葉が出てこなかった。どういう状況なのか理解が追いつかない。最後に会ってからもう十年以上経つから髪型などはもちろん変わっているが、紛れもなく晴樹だった。 「え…晴樹…だよな?」 「そうだよ。久しぶりだな恭司」 目の前の光景が信じられなかった。まさか晴樹が事故男の上司として登場するなんて夢にも思わなかったのだ。視界の隅では事故男も困惑している。上司がいきなり被害者とタメ口で話し始めたのだからそれも当然だろう。  それからは事故のことはそこそこに、晴樹とは連絡先交換をして別れた。二人の間にあるわだかまりが無くなったわけではないが、きっと融解するのも時間の問題だろう。少し前では考えられないほど佐原は前向きな気持ちになっていた。きっとやり直せる。当時と同じかそれ以上の関係になれるはずだ。今の佐原にはそう思えてならなかった。東野さんとまたラーメンに行こう。そしてこの話をしてみよう。きっと驚くはずだ。
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