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気がつけば、風に乗ってくる草の匂いは、瑞々しい青ではなく枯藁のような香りに変わっていた。
晴れた河川敷を、俯きがちに歩いていた都は、ふと顔を上げた。昼下がりのこの時間、人は少ない。
息もできないような重々しい湿気は、もうない。それでも額には汗がしっとりと滲んでいた。
都の通う中学校では、授業の真っ只中だ。真面目にノートをとっている優等生や、友達とふざけあったり、手紙を交換している生徒もいるだろう。
いつからサボるようになったか、記憶は曖昧だった。ただ、クラスの中で都は『透明』で、いてもいなくても気にする「友達」はいなかった。
親に知れたら怒られるだろうな、とは思っても、先生たちからも特に何を言われることもなく、告げ口される心配はしなかった。
都のぼんやりとした視線の先。だだっ広く、ひたすら真っ直ぐな河川敷に、たった一人だけ。
老人が折り畳み式の椅子に座って、絵を描いている。
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