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1 始まりの始まりは私の告白から
私、三守麻白の身に起きた信じられないできごと――それは2週間前、交通事故に遭ったことから始まった。
病院で目を覚ますと、みんなが声をかけてきた。
私はベッドから起き上ろうとしたが胸に激痛が走り、起き上がることができなかった。そのため、横になったまま周囲の顔ぶれを眺めることにした。瞳に涙を浮かべる者、安堵の表情の者、無表情な者、ただその誰もが記憶にない顔ばかりだった。忘れたわけではない、知らない人なのだ。
それからしばらくは記憶喪失を装いながら、状況を把握することに努めた。
私の名前は立花朱理。
(そこからすでに間違っている……)
瀧野瀬大学の医学部3年で21歳。
(19歳の専門学生のはず……)
鏡に映る自分の姿は黒髪ロングの超美人。
(えっ私が私でなくなっている……)
病院関係者からも話を聞いた。
立花朱理は心臓移植のレシピエントで、先日、適合するドナーが見つかり、手術をしたそうだ。
結論は出た。
私の心臓が彼女に提供されたと考えればすべての辻褄が合う。
心臓移植後、性格が変わったとか、食べ物の好みが変わったとかという話は聞いたことがある。
それと似たようなことなのだろうか?
これからは、自分を偽って生活していかなければならないのだろうか?
考え出すと不安材料ばかりになってしまうので、なるようになるしかないと開き直ることにした。
それとは別に、ひとつ気になることもある――それが毎日見る同じ夢。
私には家が隣同士の幼馴染がいたのだが、その彼がアパートの一室で、ひとり苦しみ悶えながら絶命する夢なのだ。不思議なことに目覚めた後も鮮明に夢の記憶が残っている。大学生になって独り暮らしを始めたことは前から知っていたのだけれど、部屋に入ったことはなかった。
確信は持てないが、不思議なことがこうも続けば常識は欠如する。
それに後悔は絶対にしたくなかった。
今日は8月1日。
彼のために昼夜勉強をかさね、綿密な計画を立てた作戦の決行日。
体調も頗るよい。
探偵さんには事前に、彼のアパートのエアコンの破壊と、チラシの投函を依頼してある。これは容姿の変わってしまった私が、幼馴染である彼の信用を得るための布石。
ちなみに、私が現在入院しているこの病院の最高責任者は立花哲也で彼女の父親だ。金に糸目はつけず使える権力は使わせていただくことにした。
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