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これは、オレが中学2年の夏休みの物語、音楽と青春のバラードだ。
2020年、夏。そう、新型コロナウイルスパンデミック流行の、あの年。
1学期の終わりに、担任のキィ子が夏休みの課題を配っていた。キィ子は音楽教諭。バッハ、ショパンとリストさま以外は認めない、ムッチャ偏った音楽性の持ち主。教科書の日本語の歌は全部ダメ出しする。退屈な授業に男子がふざけてると、いつもヒステリックにキィキィ注意する。だから、キィ子。
「これが、課題です。そして、忘れずに日記も書いてくるように」
某男子が、すかさず言う。
「絵日記ですかぁ?」
みんなは爆笑、キィ子のキィキィが始まるが、割愛させていただく。
教室のざわめきが少し落ち着いた頃、オレの親友、Mが手を挙げる。
Mはイケメンだ。しかも性格は優しく温厚、いつも笑顔、スポーツ万能で成績も優秀、ギターも上手い。歯科医の息子で育ちもいい。女子はみんなMを好きだし、きっとキィ子だってMのことはご贔屓だと思う。
「でも、今年は旅行にも行けないし、イベントもありません。盆踊りや花火大会すらないのに、日記に何を書けばいいのですか?」
教室中から、そうだそうだの合唱。しかも、あのMの発言なら重い。キィ子だって耳を貸す。
「そうですね・・・わかりました。今年は思い出に残ったことを、ひとつだけ書いてくればいいです」
おお〜っとどよめきが。毎日の日記は正直めんどくさい。ありがたいねえ。一同、Mとキィ子に拍手。
さあ、1学期が終わった。Mとぶらぶら教室を出る。いつものように、成績表を見せ合う。オレたちはそれくらい仲がよく、まあそれくらい成績もいい。
「ひと夏の思い出って言ってもなぁ」
Mがマスク越しに呟く。
「たしかに、思い出になるようなことが起れば、奇跡だよな」
オレも同意。
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