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「まーくん、指輪外したでしょ」
出張から帰ってきた僕が風呂から上がると、ビールと枝豆を運びながら、感情の読めない声で妻が言う。
結婚して3年目。
初めての九州だったから、ちょっと浮かれていたかも。
指に目立った違いはないはずなんだけれど。
こういうときは、どんな返しが正解なんだ?
傷が付きやすい製品を扱ったからだよ……。
暑い中、外で手が汚れる仕事を頼まれちゃって……。
いや。
後輩が今度結婚するらしくて、参考に指輪の刻印を見たいって言われてさ……。
誰って訊かれたら終わりか。
「大丈夫よ、何か疑ってるわけじゃないから」
「あ、あぁ。ちょっと、な」
確かに、何もやましいことはない。
ちょっとは期待した、かもしれないけど。
向こうの社員と飲みには行ったけれど、疲れていたから早めにホテルに入ったし。
妻とは同い年で、大学のときに知り合った。
そのときからクールな印象は変わらない。
どんなときも冷静で、仕事も卒なくこなし、適当な自分とは違って尊敬できる存在だ。
そんな妻が、一つだけ子どものように喜んで言ったことがある。
「どんなときも結婚指輪は外さないようにしようね」という約束。
家事や仕事の際に外す女性がいるけれど、妻は見た目と違ってそうではなかった。
二人で選んだ指輪をとても大切にしてくれている。
そんな思いもあって、僕のささいな変化に気付いたんだろうな。
さすがとしか言いようがない。
悪いことは、やはりばれるものだ。
「出張、お疲れさまでした」
そう言って、妻が冷えたグラスにビールを注ぐ。
「ありがとう。こっちも今日は35℃近くまで上がったみたいだね」
注いでもらったビールをグイッと飲む。疲れた体に、一気に冷気が流れ込む。
「今年の夏は、本当にひどいわ」
お酒を飲めない妻が、麦茶を一口飲む。
テレビをつけると、甲子園での伝統の一戦が映し出された。
投手戦で、5回を終わって0対0。
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