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2杯目を飲み終えた僕は、それとなく妻に尋ねた。
「なぁ、なんで指輪外したって分かった? も、もちろん、やましいことは一切しておりません!」
枝豆に伸ばした手を引っ込めて、妻が言う。
「薬指の爪……」
「えっ?」
「薬指の爪を見て」
指輪をしている自分の左手の薬指をじーっと眺める。
「線が走ってるでしょ」
もう一度確かめる。
爪の中心よりやや右側に、はっきりと黒い線が縦に入っている。
こんな線は今まで見たことがない。
「ほ、ほんとだ……」
他の爪はきれいなピンク色なのに、左手の薬指の爪だけに黒い線がある。
「それが、私との大切な指輪を外した証拠よ。まーくんのことは、なんでもお見通しなんだから」
野球にあまり興味のない妻は、席を立って廊下へ向かった。
やがて、風呂場からシャワーの音が聞こえてくる。
ふと気になって、妻のいない間に、スマホで爪のことを調べてみる。
「爪、黒い線、と」
検索すると、「爪甲帯状色素沈着症」という長々とした名称が、イラストとともに見つかった。
「なんだ、これか」
どうやらメラニン色素が関係するらしい。
でも、待てよ。
確かに、指輪を外す前には、こんな線はなかった。
それに、妻は冗談を言うようなタイプではない。
常に落ち着いていて、極めて客観的に判断、分析ができる女性だ。
もやもやした気持ちを抱きながら、ナイターを見る。
テレビの画面を見るものの、やはり薬指の爪をちらちらと見てしまう。
試合は結局、投手戦、いや貧打戦というほうが正しいのだろうか。
両チーム1点も入らずに、そのまま引き分けで終わった。
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