44人が本棚に入れています
本棚に追加
上 01
風は強風、しかも強烈な向かい風だ。
「本当に降りる気なんですか?」
フラット・ヘリコプター社の運転手がそう言う。
「ええ。取材なもんでね。どうしても行かなければならないんですよ」
スタッフの六井が険しい面持ちで答える。
「そうですか。それではそろそろドアを開閉しますので、準備してください」
運転手も、その真剣な態度に根負けして、説得するのを諦めた様子で言う。
扉がバタンと開く。
突風が入り込んでくる。
鳴り響くプロペラの轟音がやけに大きく感じてしまう。
一気に緊張感が漂う。
カメラの長戸も焦りを隠せない様子だ。
本当に、ここから降りるのだ。
私は下を見て呆然とする。
「西角、早く行け」
六井が低い声で言う。
「えっ!?私ですか?」
私は困惑する。
私は、最後に飛び降りる筈では…
そう言おうとした時、背後から何かの重力を感じた。
重力の法則に従って、前に体が押し出される。
えっ。
私は茫然自失とする。
足の下に、あるべきモノは既に無かった。
快晴の空の中、私は太陽に別れを告げられてしまった。
下を見れば、広大な森林が私を待ち構えんとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!