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「でも閉める前に、もう少し足掻いてみないかって父に提案したんです。それでまずは今のお客様のご意見を聞こうと。よろしければ、書いてくださいね」
娘はにこっと笑うと、スタスタと去っていった。
「ここ、なくなっちゃうのか……」
男はポツリとつぶやいた。
この店の雰囲気と、コーヒーが好きだった。
少しくたびれた一人掛けソファも、クッション部分が程よくフィットし、まるで自宅の家具のような安心感さえあった。
男はここで読書をすることもあったし、仕事で必要なアイデアをノートに書き留めることもあった。まさに第二の自分の部屋みたいなものだった。
コーヒーを一口すすり、アンケート用紙を眺める。
一枚書いてみるか、と思ったが、紙は置いてあるのにペンはなかった。
仕方なく自分のペンで、と思い、男が鞄の中をごそごそと探すと、一本のボールペンが出てきた。
男はそのペンで、着々とアンケート用紙を埋めていった。
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