そんなベタすぎるラッキースケベに引っかかる俺ではない

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「……んんんっ」  ベッドを背もたれにしながら伸びをして、室内灯に慣れない目をこする。 「……ライン? 誰だよ。ああ、渡辺か」  同級生の名前が画面に表示されている。床に座ったまま携帯に手を伸ばして、触れる寸前で手を引っこめた。  プレビュー表示の文面だけで不気味な雰囲気が伝わってくる。なにごと。 「ええと……『今日お前が女子と歩いてんの見たぞ。まさか、彼女じゃないよな? 彼女じゃないよな? 彼女じゃないよな!?』…………ああ、なるほど。見られてたのか」  俺は『ごめんね』と一言返信し、そっと画面を伏せた。 「まあ、誤解なんだけどな」  少なくとも渡辺君が身悶えて妄想しているような話ではない。俺は幼馴染みの桜と一緒にいただけだ。 「ふ、受験生なのに女子に手を出すほど馬鹿じゃないんだぜ、俺は」  教科書を広げる。俺の成績では少々無理のある大学を目指している。残念だが女や青春にかまけている暇なぞないのだ。 「智!」  威勢のよいノック音が響き、顔をあげると桜が部屋の入り口に立っていた。 「夕飯の片付け終わったよ。お風呂借りていい?」 「おお、ありがとう。悪いな」 「いいよ。泊めてもらうんだし」  ただ、桜がうちの家に泊まることになる展開になったのは流石の俺も予想外だった。しかも今晩は両親とも出張でいないのだ。 「おばさんの作り置きの料理美味しかったあ。優しいよね。うちの親も見習ってほしいよ」 「高校生にもなって親と喧嘩して家出すんなよな……。明日には帰れよ」 「えぇ、やだよ。智の家の子になる」 「あのなあ」 「あれあれ、智、勉強してる? テストまだ先なのに?」  誤魔化すように桜は亜麻色の髪を揺らしつつ、ひょこっと腰を折って覗きこんでくる。  溶かした蜜のようになめらかな首元が伸びてきて、俺は慌てて顔を背けた。 「……受験生だから毎日勉強するんだよ。当たり前だろ」 「ふふっ、智って本当に真面目だよね。だから安心して泊まれるよ」 「……あ? 一応、二人きりなんだけど、安心?」 「安心だよ。だって智にそんな度胸ないもんね」  桜は一瞬白けたように目を細めたが、すぐに人懐っこい笑顔に戻る。  完全に男に見られていないな、これは……。まあ、何もする気はないからいいけどさ。ふん。 「それでさ、智。なにか着るもの貸してくれない? 制服じゃ寝られないから」 「着替えも持たないで家出したのかよ?」  俺が目を丸くすると、桜は少し困ったように腕をさすりだす。 「しょうがねえなあ。ちょっと待ってて」  教科書を置いて、服を適当につめてるタンスから新品のシャツを引っ張り出す。  親父のアメリカ出張のお土産だが、どう見てもヤンキーのタフガイが着るビッグサイズである。体が細めの俺への挑戦状なのか、何も考えていないのか、親父の土産はいつも微妙でちょっと困る。 「ほい、新品」 「え、あ、ありがとう?」  彼女はびろーんとシャツを広げて「ん?」と首を傾げてる。さて、ズボンも探してくるか。  一人暮らしでいなくなった姉貴の部屋へと向かう。姉は帰省した時の荷物を減らすために、服や下着を実家に常備しているのだ。 「えーっと、短パンと……なんだこれ、タンクトップにブラカップがついている。噂のブラトップってやつか。シャツよりこっちの方がいいな。よし」  ゲットした獲物を抱えて部屋に戻る。 「桜、姉貴のだけどこんなんでい」 「ちょっ! まだ入んなっ……いで」  ドアを開けた先の桜の姿を見て息が止まった。アメリカンサイズのシャツを一枚で着て、両肘を抱えて顔を赤くしていたのだ。 「とっ……智ぉ、これ短すぎない?」 「さっきのシャツ……一枚で着たの?」 「え? こ、これって、シャツワンピじゃないの」  思わずごくりと唾を飲みこむ。  シャツの前開きの下にできた三角形の隙間から、のぞく太ももとその奥の小さな布地。 「黄色……?」 「え!? あ、やっ」  ぐいーと裾を引っ張って隠そうとする桜の胸元が大きく開き、葡萄に似た質感たっぷりの膨らみがこんにちは。 「みっ……み、見ちゃダメだってば!」  おい、やめろ。狭い部屋で俺に向けて腰を曲げたりするな。上から覗く形になるじゃねえか。  ぽっかり開いた胸元の肌色洞窟へ、斥候と化した俺の視線が吸い寄せられるように潜入開始。大冒険が、はっじまるよー!  下を隠すことに必死になった桜は、上からの視線侵入に全く気がついていない。彼女の汗と共に動く俺の目は、双丘の丸みを次々とすべりおりヘソ付近まで到達完了! 進んで進んで流れの勢いは止まることなく下腹に向かって――。 「あ、智、それ服? 貸して!」  とっさに桜の制服が突っ込まれた鞄を手に取り部屋の外に出る。  どんどんと桜が叩くドアにもたれかかって、ばくばくと拍動する心臓を押さえた。 「なんだよ、あいつ……襲われたいのか!? ……そうか、襲われたいのか……。いや違うっ、あほか俺は!」  ぶんぶん首を振りすぎて頭が痛い。  桜の胸が、足が、黄色い小花柄の下着が、くっきりはっきり頭から離れなくて。  いかん! 理性とか何かが色々ともたん。俺には勉強がある。勉強があるんだ。女人など頭から叩き出してしまえ、と決然とドア越しに叫んだ。 「桜、服やっぱりなかったわ。今日はそのままでいて!」 「な……え、どういう意味?」 「そういう意味!」 一瞬ドアの向こう側は静かになったが、ややあって再び鳴り出す打撃音。 「ばっ、ばか。なに考えてんの! 変態! 制服かえせ!」  多少上ずった声で、桜はドアを叩き続ける。  もう一度あの姿を晒すのが恥ずかしいのか、騒ぎながらも桜は部屋からでてこない。タンスには俺の服があるのに気付かないほど混乱しているらしい。  俺はこの隙にとゲットした獲物と鞄を速やかに姉貴の部屋へとリリースした。  さらばブラトップ!
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