納涼

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 乙女らしく、わずかばかり胸の中に遺された怖さを振り払う為に部屋の灯りをつけて明るくした。床に座りなおしてベッドに背を預ける。どっこいしょなんて親父臭い独り言は聞かなかったことにした。  改めて日付を確認すると『M地区』と題された話が投稿されたのは実に去年の話らしい。  こういうサイトに載る話は全て作り話だと思っていたが、そうでもないということか。少なくとも一人、私と似たような経験をして去年、掲示板に書き込んだ人間が居たはずなのだ。  受験のプレッシャーが見せた悪夢と思っていたあの体験が現実のものであったならば、彼らは一体何をしていたのだろう。  怖い話のサイトのコメント欄にはいくつか考察やら解釈やらを議論した跡があったが、その末尾。今日の日付で書き込まれた脈絡なく放り込まれた一文に目が留まる。  “――外の暗さと家の中の暗さが逆転するまで待ってたんじゃないの?”  それは『何のため』という説明にはまるでなっていない。だから鼻で嗤うこともできたのに。そのはずなのに。  ……なんだろう。なんだろうこれは、すごく嫌な予感がする。  卓袱台に潜る足の先からから、ぞぞぞっと悪寒が這い上がってくるのが分かった。  ぺたりぺたりと、ふとアパートの廊下を歩くサンダルの音に気付く。玄関の横、キッチンの窓の擦りガラスから見える人影がなぜか部屋の前で足を止める。バンッと掌をついて顔を近づける暗い人影。  目を滑らせて見つめる視線の先、うっすらと鈍色の光に照らされた玄関の鍵は、  ――開いていた。
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