1.パン朝食 3

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1.パン朝食 3

 れいあさんは水に晒していた俺の腕の内側をまた目を細めてじっと見た。瞬きと首の動きで焦点を合わせる姿はレンズの入った機械のようだ。どのように動いたら見え方がどうなるか、体の感覚としてわかっている。そして無意識にその動きを繰り返す。  れいあさんは目が悪い。それもよくある視力低下とは違い、メガネやコンタクトでは矯正がきかない。加えて眩しいのだという。朝の刺すような日差しと、昼の陽の反射と、夜の街の灯り、ほぼすべての光が彼の瞳の中で乱反射する。  だから入居するとき、音寧くんに条件として出されたのは、不用意に共用スペースのカーテンを開けない、れいあさんの部屋の入口にかかっているカーテンを開けるときはひと声かけて、5数えてからにする、ということだった。  とはいえれいあさんは日中に2階に上がってくることは少ないし、まして自分がれいあさんの部屋に行くことなんてほとんどない。そもそも2階の窓は北向で採光も悪いから、開けなくても何も問題なかった。この家賃と水道光熱費で学校の近くに住めるなら、そんな些細なルールを守るなんて容易い。窓なんて板を打ちつけたって構わない。ここらの不動産屋で探したらまず見つからない破格の条件だった。
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