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屈辱以外のなにものでもない。
悔しさに拳を握りしめながら、これからどうするべきか考えを巡らせる。どうにかここから逃げないといけない。でも、手は拘束され壁と繋がれているし、牢には鍵がかけられている。ここから逃げ出せたとしても、この場所がどこかもわからないし、ここが異世界なら元の世界に戻る方法もわからない。
詰んだな。これ、どうしようもねぇじゃねぇか。逃げ出したところでこんな訳も分からないところで生きていけると思えない。金だって持ってない。
ポケットの中に財布やスマホを入れていたはずだが、今は別の衣服に着替えさせられている為ここにはないし、その金がここで使えるとも思えない。
しばらくして、先ほどの男が戻ってきて黙っているなら口の拘束を外してやると言われ、大人しく従うことに決めた。睨みつけるのをやめ、大人しく頷くと、男は口の拘束を外しさっさと出て行ってしまう。口の拘束が外されても、手は相変わらず拘束されたままで逃げ出せるわけではない。
「お前は、なんでこんなところで売られてんだ」
先ほど俺に声をかけてきた男に話しかける。
「僕は捨て子だから。こういう生き方しか、選べない」
「選べないって。仕事とか、ないのか?」
「お金なくて、勉強できない。どこも雇ってくれない。親がいない子どもは、大抵奴隷として生きるしかない」
それが当たり前みたいな。逃げたいとか、おかしいとか全く思ってもみないような。それでいいのか。“奴隷”なんて、待遇なんてどうせ劣悪なんじゃないのか。
「お前、名前は」
「名前はない。もらわれたところでつけてもらう決まりなんだ」
「・・・・・・歳は」
「十七」
十七歳まで名前もなく生きるって、どうなんだ。不便はなかったのだろうか。自分はいったい誰なのかと。俺は、生まれたころから名前は鳥越律だって、決まってて。それが当たり前で。小さい頃はそれこそ、自分の事を名前でだって呼んでいた。
それが、俺の当たり前だ。でも、こいつはそうじゃない。
ここは、いったいどこなんだ。夢だと言ってくれ。夢なら早く覚めてくれ。
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