episode 1

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 対面になっている牢屋の真ん中は通路になっているようで、ベルの音が鳴り響いたかと思うと、牢の中にいる男たちが揃って格子の近くまですり寄っていった。そこを買い手の人間が通り品定めをすることになっているようだ。  人間を売り買いするなんてどうかしている。そんなことが当たり前に行われる世界。奴隷にされるなんて御免だ。俺はそんな男たちとは反対に壁際まで下がり顔を隠すように伏せた。  品定められるなんて冗談じゃない。  しばらく人の気配がざわざわと煩く、奴隷商人と商談をしている声が聞こえ胸糞が悪い。もっと若いのはいないのか、もう少し肉付きがいいのがいい、などと下衆い台詞が飛び交っていた。  少しして人の気配が薄くなってきた頃、突然「そこの、後の」と声をかけられる。思わず顔をあげてしまうと、射抜くような鋭い視線を感じ身体を固めた。 「あれは今日仕入れたばかりでして、躾のなってない人間でして・・・・・・」 「・・・・・・いや。あれでいい。すぐに手配を」 「本当によろしいので? なににお使いになるのかは存じ上げませんが、他にももっといい人間はおりますが」 「いや良い。いい人材が欲しいわけではない。そういう人間はもっと他の必要な者のところへ」  勝手に話が進められている。俺が買われるって話か。ふざけんな。いや、でも。この引渡しの時が一番の逃げ出すチャンスなんじゃないのか。この牢屋から出されるってことだ。拘束だって外されるかもしれない。  そのチャンスを、逃すわけにはいかない。
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