episode 1

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 男の指示により、奴隷商人の男が牢の中へと入ってくる。壁と繋がっている鎖を外し、手枷も外された。手首は赤い痣ができている。 「よかったね」  連れられて牢を出る瞬間、さっきの名無しの男が声をかけてきた。なにが良かったんだよ。人に買われて、奴隷にされるっていうのによくなんかねぇだろ。そう思うけれど、買われることを望んでいるその男に、何も言い返すことはできなかった。  俺には理解できないこの世界の常識とか、良し悪しとかがきっとあるのだろう。ただ、そう。俺には理解できないってだけ。  チャンスを待つんだ。外に出て、車にでも乗り込む瞬間に隙を見つけて逃げる。そう心に決め連れられるままに歩くと、あの牢は地下にあったらしく、階段を上がると地上が広がっていた。ここに来た時に見た、レンガ造りの洋風な景色。日本のそれとは全く違った。  そして、俺を待ち受けていたのは、車ではなく――馬車? 馬車なんて初めて見るし、初めて乗る。いや、乗らないけど。  その馬車の前に待ち構えていたのは先ほどの男。この世界の事はよくわからないが、俺の目から見ても金持ちそうな雰囲気を感じ取る。着ているきっちりとした良質そうなスーツ? いや、なんてぇの、軍服みたいな。って、見惚れてる場合じゃない。  奴隷商人の男からその男に引き渡される瞬間、奴隷商人の男の手が離れた瞬間、俺は駆け出した。どこに逃げればいいのかわからない。逃げたところで生き延びられる可能性なんてない。それでも。奴隷として買われるなんてまっぴらごめんだ。  しかし、決死の逃亡劇は一瞬にして幕を閉じた。すぐに追いつかれ、手刀を入れられた俺は、逃げる事も出来ずその場に倒れた。
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