episode 1

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 だだっ広い部屋に一人残されてもやることもなく、風呂があると言われたことを思い出し覗いてみると、俺一人にしてはずいぶんとゴージャスな風呂だった。ライオンの口からお湯が出るタイプの王さまのお風呂みたいな浴室だった。ルカって男がいったい何者なのか、ものすごく気になるところだ。  その風呂に入り、温もると少なからず緊張していた体がほぐれていく。これからどうなるんだろうか。吹っ切ったつもりの気持ちは、結局モヤモヤと自分の置かれたこの状況への不安や絶望に似た感情は消えない。  それでも、いつなにが起きてもいいようにと、慣れた手つきで中の洗浄まで済ませて出るあたり、こういうことに場慣れてしていたことはよかったかもしれない。もし、経験もなく、その上ゲイでもなければ、今の俺以上に絶望的な状況だっただろう。そうやって自分を慰めるしかなかった。  風呂から出てみると、いつの間にか誰かが入ってきていたのか壁際にあるテーブルの上に料理が用意されていた。声でもかけてくれればもっと早く出てきたのに冷たい奴だな。そう思いながら、確かに腹が減っていることに気づきテーブルに座る。見た事のないような形の野菜だかなんだかはあるが、奇抜な色の料理というわけではなくホッとする。恐る恐る口に運んでみるが、味も普通に美味しかった。パクパクと黙って全部平らげると、食器もそのままにベッドへ戻った。  食っちゃ寝の生活をしてたらいつか太りそうだな。そう考えつつも、いつの間にかうつらうつらと眠っていた。
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