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左のエース
「しまっていこう!」
聞き慣れた岡の声が響いて、反射的に顔を上げた。
ブルペンから見るダイヤモンドはきらきらしている。俺はつい背番号11を探してしまった。右翼の方にいるはずだ。
あまり出番のない定位置に着いた相棒が手を上げるのが見えた。
うちのシートノックは、他校と比べても非常にコンパクトだ。
まず最初に外野陣のバックホームだけを行い、あとは内野陣のゴロの処理が中心だ。県大会では7分ある時間を持て余すし、ブロック大会では終了のアナウンスの前に引き上げることも多い。いまも外野はレフト、センター、ライトの順に2、3人ずつがホームへの返球の感触を確かめて、すぐに引き上げてくる。最後が相棒で、そしてそのままベンチに引っ込む。給水して、ロージンでも持ってからこちらに来るのだろう。
俺はキャッチのエイジに「ちょっと待とう」と声を掛けた。
投手でも複数のポジションをこなすのは高校野球なら当たり前のことだが、戦力の豊富な強豪校だとそれなりに分業化も進む。しかも今年、ウチは白石さんと相棒と自分と、エース級が三人揃っている。マウンドを降りると、そのままベンチに下がることがほとんどだ。
でも、未だに相棒は外野のノックを受けている。
まあ足も速いしバッティングもいいしで、一年の頃から練習や紅白戦では時々、外野もやっていた。熱中症対策も考えると、三人の中では相棒がノックに混ざるのも妥当ではあるのだが。
なのだが。
小学生で野球を始めてから、ずっとマウンドに立ってきた。他のポジションを試したことはないし、やろうと思ったこともない。左利きであればこそではあるが、たまにふと思うのだ。
ライトのポジションから、投手の背中はどう見えるだろう?
彼は、自分の背中を
もし、自分だったら、彼の背中を、
「けいいちろう!」
呼ばれた。
相棒がこちらに駆けてくる。
グラウンドではキャッチャーフライが上がって、ノックが終わろうとしていた。
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