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控え捕手
外野から最後の野手が戻って来る。
今日は背番号11の二年生右腕のコバだ。この頃は減ったが、マウンドを降りたあとで外野に残る可能性があるので、彼は時々ノックに混じる。当人が好きなのもあるだろう。戻って来たコバは他の野手と違い、ボール拾いや声出しに混ざることなくベンチに入る。このあと、ブルペンに回るはずだ。
それを横目で見送って、オレは内野に視線を戻す。
ダイヤモンドは陽炎が揺らめくほどの熱さで、場所によって打球の弾み方や転がり方が変わる。オレは癖を見逃すまいと目を凝らした。
捕手は扇の要、という。
ホームベースと内野の各塁を結ぶダイヤモンドの支点なので、まさにその通りなのだが、それ以上にゲームの上で「要」となるポジションなのは周知の事実だ。野球というゲームの中では投手に次ぐ重要度であり、ひょっとしたら投手以上に向き不向きのあるポジションでもある。特に日本では配球を捕手に頼る部分が大きいから、ゲームをコントロールする立場にさえなる。
だから『要』なのだ。
一人だけ違う方向を見ている、自分。
孤独と、責任と、気配りのポジションだ。
なぜ捕手を選んだかを問われると、いつも困ってしまう。突出した何かがあった訳ではない。元々は身体が丈夫だったとか、チーム事情とか、レギュラになり易いという打算もあったかもしれない。なのに、オレはこの名門校の門を叩いて、希望を聞かれて捕手と答えた。
そうして選んだ位置だというのに、背中が重い。
今年はエースのシロと、二年の右左腕コンビ、コバとヤナギがいる。いずれも普通のチームならエースだ。ただ、それだけに個性も強いから、一人で切り回すのは骨だ。だから決してただの控えではない、と部長先生には繰り返して言われたが。
それでも、十の桁が余計だった。
ノックが終盤を迎える。
ウチでもキャッチャーフライで締める。最初に正捕手が大きな声で応えて、一塁側に飛んだ白球を追う。次に上がった球はホームの後ろ側に飛んだ。バックネットに近いところ、ネットや壁との距離を見極めないと危険だ。
オレはネット間際で掬うようにキャッチする。
ほっとしたところに、「サード!」と鋭い声が飛んできた。
はっ、と血の気が引く。
腹に力を込め、強くボールを握り直しながら腰を入れて振り返る。サードにバックアップに入っていたミズキが頷いた。捕邪飛でのタッチアップは相手チームの十八番だ。迂闊だった。ノックだといっても冷や汗をかく。
ふっと気配が近付いてきた。先程の声の主、背番号2の後輩だった。
「オカちゃん…」
「頼んますよ」
さっき、オレが投げ捨てたマスクを手渡される。ちゃんと土が拭ってあった。
集中…!
オレは大きく息を吸って、額の汗を力任せに拭った。
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