背番号14

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背番号14

「よう」  片手を上げて挨拶してきた旧友に、おう、と返した。  試合前のメンバー表交換と先攻後攻を決めるジャンケンから、俺達も周囲も熱がぐっと上がる。何度となく繰り返しているが、最後の一戦であれば既に沸点に近い。 「どうよ、調子は」 「まあまあじゃね?」  部長先生同士が挨拶をする横で、軽口に軽口で応えてメンバー表を覗き込む。向こうの先発を確認し、俺は思わず顔を顰めた。 「なんで白石じゃねえの?」 「お前んとこに右の速球派当ててどうすんだよ、俺達は勝ちに来てんだぜ」  鼻で笑われた。確かにうちは本格派に強い。二年生左腕のデータを思い出しながら、相手がエースで来ないぐらいで腹を立てる自分も器が小さい、と思い直す。  夏の準決勝であっても天王山、互いに解っている。ライバル校のキャプテン、藤堂はガキの頃から対戦してる相手でもある。回転の速さとバッティングセンスと口の悪さは折り紙付きだ。さて何と返すかと思っていると、あちらの部長先生が「行くぞ」と促している。  それに頷いて、じゃ、と身を翻した背番号8を見送って、俺は溜息をひとつ飲み込んだ。  羨ましくない、と言ったら嘘になる。  自分の背中に付いた番号を思って、手にしたメンバー表をすこし強く握る。昨秋からはキャプテン同士として顔を合わせている。そのときは夏までに数字を減らせばいいと思った。  でも、今でも背負った番号は二桁のままだ。  もちろん、うちで背番号を取ること自体が誉れなのだ。それでも、それこそ手の皮が剥けるほど振り込んで、吐くほど走り込んだ結果だ。及ばなかったと… 腹の底が煮えるような感覚に、今でも叫びたくなる。  だから、どうしても、この試合に勝って「次」の機会を手に入れなければならない。次は、聖地への切符とともにやって来る。  だからこそ。  そうすれば、この焼けるような感情にちゃんと名前をつけて、おさらばすることが出来るだろう。  俺は腹に力を入れて、前を見た。
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