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で、登校初日。
持久走の外周ラストで走る学校までの上り坂を──我が校では心臓破りの坂と言っている──色気もへったくれもありゃしないマスクしながら私は、うなだれながら登っている。
ギャンギャン、ビービー鳴いてる蝉!
あー!うるさい!黙れ!チンパンジーども!
お前らはいーよな!
そうやって泣きわめいて交配してればアオハルだもんな!
私だって私だって……
やさぐれている私の肩をチャーが叩いた。
「ケイ!ちょーおひさ!五億年ぶり!元気してるー?」
「いや、もう、まじ、ムリ。最悪」
「だよねー」
ああ。こんな時に心の友がいてくれるのは、ほんと助かる。
チャーとは中学時代からずっと親友だ。チャーのことならなんでも知ってる。初恋の相手から今の好きな人、歴代推しメンも全部あげられる。
「なんかいい事あった?チャー」
「あるわけないじゃん」
「だよねー」
同士よ。
「ねえ。ケイ。ダイビングしない?」
「ダビング?なんの?ビデオ?」
「ちゃうちゃう。ダイビング」
「パソコンのキーボード?」
「それタイピングな!ダ、イ、ビ、ン、グ!!」
「ダイビング?飛行機から落ちる?」
「それはスカイダイビング。私のしたいのは海の方。スキューバダイビング」
「バーベキューとどっちが美味しい?」
「あかん。熱中症だ。イッちゃってる!」
「ああー!わかった!ダ、イ、ビ、ン、グ!!……ボンベしょって?えっとえっと」
因みに当時の私の語彙力は小学生並み。
「そうそう。それそれ!」
「あー。海ぃーー行きたーーい!」
「でしょー。で。海ん中潜ってお魚たちと戯れたら、素敵だと思うんだ」
「いい!それ!なんかいい!」
「でしょー。ねえ。どう?」
「んーでも……まだコロナだし……なんか皆、コロナ危ない危ない言ってっし。出歩くなのもさぁ。なか、なかなかな」
うう、舌が回らん!暑い。マスクうざい。
「そこなのよねー。だからもう今年の夏はもう捨てて、来年リベンジ。計画しようよ。私たち修学旅行もダメじゃん?このままだと文化祭もヤバいし。なんも面白みないまま卒業じゃん。そんなの意味なくない?」
「たしかに!」
「そしたらもう。自主修学旅行計画するしかなくね?今から用意してさ。来年の夏にワンチャンかけるしかなくね?」
「なんて計画はご利用的に!」
「ケイ!」
「チャー!」
うん!ってお互い顔を見合わせて力強く抱き合って。いかんいかん。密密。ソーシャル……ソーシャル……ソーシャルなんとか。
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