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その晩。ウチでは晩御飯を囲んで家族会議がもたれた。
もちろんパパとママは猛反対だ。が、それはそれ。予想していた。
そしてあの頃の年頃というものは、反対されて収まるような年頃ではないのだ。自分で言うのもなんだが、反対されればされるほど、より一層燃えてくるのだ。
「来年は受験生でしょ?それとも進学しないつもり?」
「それもちゃんと考えるから!」
「今どこもコロナで大変だからなあ」
「今じゃないよ!来年!来年の話!」
「まったく。急に思い立つのよねぇ。誰に似たのかしら?」
やれやれ始まったと、夫婦で顔を見合わせて、ため息をつきあっている。
「高校生だけで外泊するのは、ママは反対だからね」
「えー。いいじゃん。インストラクターの人がちゃんとサポートしてくれるよぅ」
「あなた達の宿まで面倒見てくれるわけじゃないでしょう?」
「ぶう」
「うちには豚はいません」
ぶーぶー。
「それに受験費用だって馬鹿にならないのよ。大学の授業料も」
「大学入ったらバイトして返すから!」
「勉学が本文なのよ?ちゃんとわかってるの?遊ぶことばかり考えて」
「げぇー」
「うちにはカエルは居ません」
さすがママ。痛いところをずばずばついてくる。
こういう時の頼みの綱。パパの方を見る。
ダメだ。亀だ。首をすぼめて、黙ーってご飯食べてる。
ウチには亀しかおらんのか!
孤立無援。致し方ない。ここは一時、戦略的撤退しかあるまい。
「蛍ちゃんの将来のことなんだから、まずはそっちをちゃんとしてちょうだい」
「遊びぐらい本気でやりたいのよ!」
「勉学に本気を出して下さい」
「ヤダ!」
私は箸を置いて立ち上がる。
「ちょっと蛍ちゃん!話は終わってないでしょ?」
これ以上言われたら、ちょっと興奮し過ぎて、何言い出すか自分でも分からない。
涙目でママを睨んで、
そこにピンポーン……とチャイムが鳴った。
その一瞬の隙をついて私は部屋を出た。階段を上って、その途中で、聞き覚えのある声がする。
「どもー。こんばんわー」
と言っているのは、たぶん、晴一の声だ。
いま晴一に、こんなみっともない顔を見られたくはないから、自分の部屋に逃げ込んだ。
下の階で何か話してるけど、よく聞き取れない。
また野菜でも持ってきたのかもしれない。
ベッドに倒れこむ。大きなため息とともに寝返りを打って、スマホを開くと、
チャーからメッセージが届いていた。
『来年こそ!行こうね!絶対!』
悔しくて、また泣きそうになった。
私はなんて無力なんだ。
ごめんね。チャー。今日。失敗しちゃったよ。
でも、諦めない。
諦めたくないから。絶対に。
一言だけ打って返した。
『うん約束!!』
その約束が、その年の夏の思い出だ。
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