ひと夏のマーメイド

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あっ、やばい。 そう思った時には手後れで、マーメイドがコンセプトの水着姿で恋じゃなく海に溺れるとか笑うに笑えなすぎる。 「――すか。大丈夫ですか」 耳に心地いい声に起こされた。 目を開けたら、色素の薄い髪に青い瞳が覗いていた。 「王子様?」 なんて呼んでしまったのは、寝起きだったからだと思ってほしい。 あと、たぶん、現実逃避で読み漁っていた、ざまあ系ラブファンタジーのせいだ。 決して、アラサーこいた私の脳内がお花畑なわけではない。 まあ、嫌いでもないけど。 「えっと、初対面だよね」 困った顔で距離を取られて、はっと我に返った。 「あっ、ごめんなさい。大丈夫です」 慌てて起き上がろうとして、上手く力が入らなくてびっくりする。 「急に動かない方がいいですよ」 ドン引きさせたのに親切な対応なのが、居たたまれなくて申し訳ない。 「溺れていたみたいですが、覚えてますか」 「ええーと、はい」 「じゃあ、管理の人を呼んできますね」 「あの、そこまでしなくて大丈夫です。場所が悪かっただけで、単なる熱中症だと思いますから」 水分を持ってこないで、ぼーっとしてた自覚はある。 だから、そろそろ友達と合流しようと思って岩場で立ち上がったら、くらりと意識がなくなったのだ。 これ以上、いらぬ恥はかきたくない。 親切な救助者は、少し考えてから、しばらく休んでいるよう忠告していなくなった。
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