第十話『整理』

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 まず確かなことは、家と名前、そして昨日通帳を返したことを知られているということだ。何故バレてしまったのだろうか。相手が警察であればまだ可能性も考えられるが、いくらカルト集団とはいえ相手はただの宗教団体だ。仮に通帳に指紋などのなんらかの痕跡が付着してしまっていたとしても、そこから割り出すなんてことは不可能だろう。まして昨日の今日なのだからありえない。万が一のために痕跡が残らないよう神経質なほど気をつけたつもりだったので、余計に考えられなかった。  となると、最も現実的に考えられるのは尾行されていたという可能性だ。それであれば、家を知ることもできるし郵便物などから名前も知ることができるだろう。ただ、そんな気配は一切なかったと思う。たしかにあの時、通帳を無事返却できた達成感から何も考えずにボーッと帰宅してしまった。  しかし、尾行されていたのであれば、あの日に通帳を返却することを知っていなければ無理ではないだろうか。そもそも通帳を返却しようと思ったのは、相馬の単なる気まぐれでしかない。それをあらかじめ想定して待ち構えておくなんてことはできない筈だ。唯一考えられるとしたら、気掛かりだったあの管理人だ。  唯一はっきりと顔や服装などを見られた相手は管理人だけだろう。仮にあの管理人にポストへ何かを投函したことを悟られていたとしたら、あるいは投函された通帳に気づいた羽田良子が管理人に不審な人物はいなかったか確認していたとしたら、相馬のことを結びつけても不思議ではないだろう。  しかし、相馬のことを捜索し始めたのがいつからなのかはわからないが、結果として一日経たずに辿り着いたことになるのは引っかかる。いくらなんでも早すぎるのではないか。警察を上回る機動力に自らの考えが誤っていると思いかけた相馬だったが、相手が宗教団体であることを思い出すと、あながち不可能ではないように思い始めた。  都内に何人いるか知らないが、幸福教信者のネットワークをもってすれば可能かもしれない。風貌はもしかしたら羽田良子の住むマンションの防犯カメラの映像から引っ張られていて、それが信者に拡散されていたとしたら。かなり身なりには気を付けていたつもりだったが、そう考えれば辻褄が合う気がした。  これまで抱えていたモヤモヤが少し晴れた気がして、ちょっとした安堵と共に相馬は目を開けた。  そして、気付いた。  その理屈でいくとここにいることもあっという間にバレてしまうのではないかということに。  相馬は乾いた喉を鳴らした。
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