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第一話『はじまり』
「きゃああああああ!だれかああああ!」
街中に突如女性の叫び声が響き渡った。
道行く人々が声の主の方を一世に向くが、当の本人は一点を見据えていた。視線の先には、ナンバープレートをしゃくり上げ猛スピードでひったくり走り抜けていくスクーターの姿があった。
「ひったくりよぉ!!捕まえてぇ!」
その言葉を受けてスクーターを追いかける人もいたが、手遅れであることは明白だった。サイドミラーで追手がいないことを確認した相馬は満足げに笑みを浮かべた。
街中を抜けてからもしばらく走り続け、人気の少ない団地の駐輪場へ到着すると、相馬はエンジンを止めた。
いつも通りの流れだった。夜な夜な盗んだスクーターで白昼堂々ひったくりをする。そして、適当な駐輪場でスクーターを捨て、戦利品を確かめる。ターゲットはそれなりに手持ちのありそうな主婦だ。一度で大金を手にすることは皆無だが、大金狙いはリスクが高い。しかし、相馬にとっては非効率的ともいえるコンスタントなひったくりは性に合っていた。
目当ては金だけでなくスリルだ。思春期の中学生のような理由だが、何物にも変えがたい緊張感があるのは確かだった。たとえ逮捕されたとしても、どうせすぐ出所することになるのだからビビってもしょうがない。今この瞬間を楽しむことしか考えられなかった。
覆面代わりのフルフェイスヘルメットを外しながら髪型を整えると、今日の戦利品を確かめる。
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