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第七話『疑心』
何故だ。
いままで幸福教に関するものがポストに投函されていたことはなかった。それがこのタイミングで投函されている。偶然にしては出来過ぎではないか。急激に不安に襲われる。とにかく落ち着くために部屋へと急いだ。
今日の戦利品には目もくれずに幸福教のパンフレットを凝視する。特に個人名のようなものは見当たらない。相馬を狙って投函されたものではなさそうだった。だとすると、たまたま幸福教の勧誘がこのアパートを訪れたことになる。それが自然な考えだろう。しかし、住み始めてから約二年経つが、これまで一度もそんなことはなかった。偶然にしては出来すぎていないだろうか。この前通帳を返却したことでバレてしまったのではないか。考えられる可能性を探って頭がパンクしそうになる。とにかく怖かった。
冷静に考えると、仮にバレたとしたらパンフレット投函くらいでは済まないはずである。ひったくりをした犯人であると気付いたということなのだから、真っ先に警察に通報し、この部屋を訪れるのは警察官あるいは刑事のいずれかのはずだ。
そう思うと、肩の力が一気に抜けた。きっとそうだ、バレたかもしれないなんてただの考えすぎだろう。ただただ幸福教という言葉に敏感になっているだけで、大して不自然なことではない。むしろ、これだけのことでバレたかもしれないと思うことのほうが無理がある。
すでに夜の八時。戦利品の確認を明日に回して相馬は寝ることにした。食事もお風呂も明日でいい。とにかくゆっくりと休みたかった。
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