第十話『整理』

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第十話『整理』

 渋谷のセンター街を抜けて交番近くにあるネットカフェ『バグスター』に入る。三階建てのゲームセンターの隣に位置するビルにあるチェーン店のネットカフェだ。これまでに何度かネットカフェを利用したことはあるものの、バグスターは初めてだった。移動中に調べたところ、この店は二十四時間パックが税込でも二千円しないので、仮に十日間滞在することになったとしても二万で済む計算になる。それが決め手だった。  エレベーターで受付のある三階へと上がる。渋谷の街は平日にも関わらずわりかし賑やかだったが、エレベーターの扉が閉まった途端に真空状態かのように静かになる。世の中と完全に切り離されたような錯覚に陥るが、それもほんの一瞬のことで、すぐにネットカフェの入り口が現れた。  店内はモダンな雰囲気だった。黒と白、そしてクリーム色を基調としており、そのお洒落な感じは過去に利用したネットカフェとは雲泥の差だ。間接照明が随所に設置されており、やや薄暗さはあるものの落ち着きのある空間だった。  受付には黒いシャツを着た女性店員が立っていたので、そのまま手続きをしてもらう。もちろんプランは二十四時間パックを選択し、スマホがあるのでPCは使用しない。そのため身分証明書の提示が不要であるのは好都合だった。設備に関しては、シャワーやコインランドリーまであるから暮らすには十分だ。それに飲み物も飲み放題というのが地味に嬉しい。  受付で手続きを済ませると、そのままブースへと向かう。受付の近くにはオープンシートと呼ばれる仕切りのない席がいくつかあり、それを通り過ぎた先にフラットシートやリクライニングシートのブースが配置されているようだった。今回相馬はフラットシートとリクライニングシートのどちらにするか迷ったが、使い分けができるということで結局リクライニングシートにした。いつまで滞在するのかわからないので、出来るだけ快適に過ごせるようにと考えた結果だ。  ブースナンバーはB-55で、ちょうど店内の中心あたりにあった。ブースに入ると荷物を適当に足元に置き、スマホを充電ケーブルに繋げてシートに腰掛ける。  奇妙な訪問者が現れてからまだ二時間も経っていないにも関わらず、相馬は強い疲労を感じていた。ここまで来る道中も常に周囲を警戒していたのだから無理もない。家を知られているのだから、後をつけられているという可能性も十分に考えられるだろう。リクライニングシートの背もたれに体を預け、目を閉じる。  まずは今の状況を整理しなくてはならない。
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