第二話『不穏』

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第二話『不穏』

 自宅アパートに戻った相馬は不安に襲われていた。  いつもと変わらない、見事ひったくりに成功しただけだ。幸いなことに現金は二万五千円ほど入っていたので、普段からすれば上出来といえる戦果だった。  しかし、ひったくった相手がまさか幸福教信者だったとは想定外だ。このまま特に何もなければいいのだが、なぜか胸騒ぎがしてならない。それはこれまで耳にしてきた幸福教にまつわる噂のせいに他ならなかった。  各家庭を訪問して入信を勧めるというのはよくある話だが、断ると数日中に何かしらの不幸に遭ってしまうと言われていた。  飼っていた猫が目をくり抜かれていたり、不倫の事実を克明に記録した紙を近所にばら撒かれたり、単なる噂で事実ではないのかもしれないが、幸福教が宗教団体としては異質であることは周知の事実だった。  そうした噂の影響から、幸福教の入信勧誘は居留守を使うのが最も安全な手段であると聞いたことがある。そんなことで防ぐことができるのならチョロい。  ただ、相馬は入信を断ったわけではないものの、むしろそれよりもまずいことをしたことになる。団体の通帳を手に入れてしまったのだ。 間違いなく血眼になって探しているはずである。仮に噂通り入信を断っただけで何かしらの行動を起こす奴らだとしたら、何をされるか想像もつかない。  冷房の効いた部屋にもかかわらず、相馬の額には汗が浮かんでいた。  だが、恐れることはない。
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