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学区が同じなので、相馬や秀太はそのまま同じ中学校へと進んだ。中学生ともなれば、先輩後輩という縦社会が色濃く反映されるだろう。特に秀太のようないわゆる不良に分類される輩であれば尚更だ。先輩に目を付けられてボコボコにされれば、秀太もこれまでみんなが味わってきた悲しみや痛みを実感するだろう。
しかし、秀太は上手くやった。
先輩たちに目を付けられるどころか気に入られた様子で、さらに幅を利かせるようになったのだ。相馬たちクラスメイトに直接的に絡んでくることはなかったものの、他校の柄の悪い連中とつるんでいる姿はよく見たし、喧嘩の噂は数え切れないほど耳に入ってきていた。もはや住む世界が違っていたし、実際相馬もその頃には秀太に興味を持たなくなっていた。
あの時までは。
ある日の下校時に、相馬は下駄箱で上履きから靴に履き替えると、正門に向かって歩きだした。視線の先には友人と談笑しているクラスメイトの友成美幸がいた。
相馬は前々から彼女のことが気になっていた。いまとなって思うに初恋だったのだろう。緊張しながら歩き、徐々に距離が縮まっていく。すれ違うタイミングでさり気なく挨拶するつもりだった。好意を悟られてはならないので、表情は崩さず、違和感のないようにさらっと言葉を交わせばいい。
あと五歩、四歩、三歩、徐々に近づいていく。
いまだ。
そのとき友成美幸はこちらに顔を向け、満面の笑みを浮かべた。その素敵な笑顔の威力に頭が真っ白になりそうになるのを堪え、相馬は声を出そうとしたが、先に声を発したのは彼女の方だった。
「遅いよー!」
遅い?意味がわからなかった。しかしそれも一瞬のこと、すぐに意味を理解することになる。
「わりぃ、でもそんな待ってねぇだろ?」
背後から声がした。聞き覚えのある声だった。その声の主が誰なのか、相馬は一瞬で悟った。
脇を通り過ぎて目の前に現れたのは秀太だった。
そこから先の記憶はほとんどない。どうやって帰ったのか、気がつくと自宅のベッドで横になっていた。
怒りや悲しみを通り越し、無力感に苛まれる。なぜあいつなんだ。誰と付き合おうが本人の自由であるということは理解してる。しかし、よりによって何故あいつなんだ。
天罰はあいつに下るはずだ。これではおれに対する罰ではないか。何故だ。なぜ。一体どうして。
なにが因果応報だ。結局のところ奪う側と奪われる側は初めから決まっているということなのか。そうでなければ説明がつかない。おれは奪われてばかりの人生ということなのか。
しかし、受け入れることなど到底できなかった。運命は変えられるものだと有名な人が言っていた。奪われる側から奪う側にまわってやる。
この瞬間、相馬の中でなにかが確実に歪んだ。
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