第四話『準備』

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 ひったくった財布に入っていた免許証を改めて確認する。  羽田良子、昭和五十八年六月七日生まれの三十七歳。住所は東京都足立区足立三丁目十三番地四号四○二。取得しているのは普通自動車のみのようだ。  写真の顔をまじまじと見つめる。特徴的な顔に思えるが、どこが特徴的かと言われればこれというものがないなんとも表現しづらい顔をしていた。強いて挙げるならば、やや面長で唇は厚め、下顎前突気味のようにも見受けられる。感情が感じられない目をしている。証明写真なんてみんなそうかもしれないが、カルト集団の信者という先入観によってより穿った見え方になってしまっているのかもしれない。髪型は黒髪で顔周りを囲むような長さのストレートヘアだ。  ひったくった時に実物を確かに見ているはずなのだが、こうして写真を見ても全く思い出せなかった。ひったくる直前まではしっかりと認識していたはずなのに不思議なものだ。  相馬は簡単に支度を済ませると、家を出た。できる限り目立たず周囲に自然と馴染む服装というテーマで無難にデニムとTシャツというスタイルにした。さすがにひったくりで使用しているスクーターで行くわけにはいかないので、電車を使う。  住所で調べたところ、羽田の自宅は東武スカイツリーラインの五反野駅から徒歩で行ける範囲のようだった。  ポストに通帳を投函し立ち去るだけだ。なにも心配することはない。すぐに済む。相馬は心の中でそう自分に言い聞かせていた。
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