独リ書ク恋慕

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「馬鹿かテメェはッ!! 煙草の匂いぷんぷんさせながら帰ってきやがってッ! おまけに恋人って男じゃねぇかッ!!」  まったくもって仰る通りなのだが、こうなると景時も黙ってはいない。 「毎日折り紙とセックスしてる兄貴に言われたくねぇよッ!」 「折り紙じゃねぇッ! 式神だッ!!」 「おんなじだろうがッ」  言い争う兄弟の横で出された茶を静かに見つめていた和人の隣に、いつの間にか白い少し変わった和服を着た長髪の男が立っていた。男の髪は水銀を流し込んだように白く日光を反射し、鋭く光る瞳は日光の色をしており、人でないことはすぐに分かった。 「相も変わらず、あの二人はくだらないことでよくあれだけ言い争える」  空気が震えるような声がした。 「折り紙なの? アンタ」  物怖じもせずに正座して正面を向いたまま訊いてきた和人の横に座り、銀髪の男は軽く笑った。 「折鶴(おりづる)だ」 「どういう意味?」 「そのままの意味だ。そういうお前は景時の恋人か?」 「………まぁ…多分そう」  曖昧な答えを返す少年の横顔を軽く見つめた後、折鶴は怒鳴り合い続けている兄弟を眺めた。 「…良くも悪くも引き寄せ易い様だな。しかし、景時を引き寄せたのはなかなか運が良かったかもしれんぞ、少年」 「少年じゃなくて、早乙女(さおとめ)和人(かずと)」  さほど大きな声ではなかったが、ハッキリと言い返してきた和人を折鶴は意外そうな眼で見つめた。
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