独リ書ク恋慕

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 能天気に言い放つ景時に返す言葉を失う。いつもこんな時、景時は実はすごくアホなのではないかと和人は思いたくなってしまう。…景隆の気持ちがほんの少しわかった気がした。 「…………」  いっそ「ならお前は食わずに死ぬまで遊んでれば?」とでも言えればいいのだが、こう暑いとそんな軽口を叩く気力さえ失せる。 「…もーいいからさっさと食えよ」  何が悲しくてこんな暑い日にコンロの前で働かなければならないのか。  適当に炒めた冷蔵庫の残り物をフライパンごと机の上に乗せてやる。  それでもまだ布団の上でゴロゴロしているアホに、和人が小さくなったタバコを空き缶の中にねじ込んでから蹴り起こしに行った瞬間だった。 「…ッ」  動きを読んでいたかのように蹴ろうとした瞬間に軸足のバランスを崩されて布団の中に引きずり込まれる。  これが噂の妖怪、布団小僧か。 「暑いンですけど?」  勝手に人を抱き枕にして甘えてくる景時を振り払いもせず、されるがままにさせてやりながら冷たい声で呟くと眠そうな声が返ってきた。 「…もっかいしよ」 「飯が冷める」  基本的に。この男が和人の制止を聞いた試しは一度もない。 「さっさと食えって?」 「……………………言ってない」  結局口ではそう言いながら、押し倒されて上にかぶさった男の背に腕を回す。  思いっきり顎を上げて部屋を見ると、上下が反転した世界の中でフライパンが机の上にぽつんと佇んでいた。  嗚呼…せっかく作ったのに。
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