独リ書ク恋慕

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◇ 「うまいうまい」  冷えた炒め物をこれほどおいしそうに食べる男は景時くらいだろう。  気怠い身体で恨めしそうに景時を見ながら、それでも空腹には逆らえず冷えた炒め物を口に運ぶ和人。  山盛りの炒め物を男二人で平らげて、洗い物をしている和人に景時が背後から訊いた。 「米まだあったよな?」 「……ホントにやんの?」  呆れた顔で見つめる和人の横で、背中を裂かれて中の綿を全て取り出された人形を持った景時が人形の身体の中に米を詰め始めた。 「んー…ま、失敗したら兄貴ンとこ行って祓ってもらうわ」 「なんでそこまですんの? 先輩たちのことなら俺が口裏合わせりゃ済むのに」  ざらざらと乾いた気持ちのいい音を立てて細く背中の裂け目に流れ込む米が、人形の中に小さな山を作っていく。  この人形には和人も見覚えがあった。確か古いアニメのキャラクターで怪人ヤナッシーという名前だ。怪人という割に可愛らしい間抜けな面構えをしており、正体は柳の木の精霊という設定…だったと思う。子どもの頃、和人も同じものを持っていた気がする。  ひとりかくれんぼの手順その一。手足のついた人形の中綿を取り出し、代わりに米を詰める。  この人形とかくれんぼするわけだが、見た目があまり怖くない物を使うあたり景時も結構ビビっているのかもしれない。 「なぁ…カズ」 「んー…」 「あのネットの書き込み、誰が書いたんだろうな」
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