独リ書ク恋慕

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「何も起きなくね?」  明かりが消えて真っ暗なアパートの部屋の中、ついたままのテレビの中で司会者の男が五月蠅い声で何か話している。どこからともなく聞こえてくる大勢の笑い声と、部屋に置かれた時計の音。  時計の針は既に四時を回っていた。 「んー…?」  いつの間にか眠っていたらしい。彼が狭い押し入れの中で幼馴染と共に隠れて部屋の様子を見始めてもう一時間が過ぎていた。  肩にもたれかかって眠っていた友人が目をこすりだしたのを見て、そっと押入の隙間を広げて部屋の様子を見る。 「お、おい」  眠たそうにしていた男が慌てて止めようとするが、横にいる男は平然としていた。 「やっぱ何にも起きねぇって。もうやめて寝ようぜ?」 「えー…んだよ。せっかく事故物件に住んだってのに何にも起きねぇから、降霊術までやってみたのに…」  彼らが降霊術と呼んでいる『ひとりかくれんぼ』を始めたのは、今から一時間半前、丑三つ時のことだ。  ひとりかくれんぼとは、インターネットの匿名掲示板で有名になった降霊術の手法の一つで、人形とかくれんぼをすると人形に霊が下りてきて心霊現象が起きるという、こっくりさんなどに代表されるオカルト遊びの一種だ。
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