独リ書ク恋慕

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「…丑三つ時…人形を刺す…」  呟いた景隆に折鶴が叫んだ。 「丑の刻参りか…!」  確かにこの手順は呪いたい相手を見立てた藁人形を釘で木に打ち付ける丑の刻参りによく似ていた。 「ああ。おそらくこいつは降霊術じゃない」  ひとりかくれんぼの正体は…呪術だ。 ◇ 『呪術…ッ?!』  電話の向こうで素っ頓狂な声を上げている弟に隆景は怒鳴りつけた。 「やる前に気づけこの愚か者ッ!!」  日本では丑の刻参りが有名だが、呪いたい相手を人形などに見立てる、『見立ての呪術』というものは世界中に存在する。  中でもひとりかくれんぼの手順に酷似しているのはヴードゥー教の見立て人形による呪術だ。人形に呪いたい相手の髪や爪、血肉などの身体の一部を入れ、糸で縫いぐるぐると人形に糸を巻き付ける。一説によればこの巻き付けるという行為によって呪いのエネルギーが増幅するとも言われているが、実際、この呪術の成功率は三割程度と言われており、これは呪術の中でもかなり高い数字だ。  なお、ひとりかくれんぼで怪奇現象が起きる『成功率』も同様に三割程度と言われている。  本来であれば呪いたい相手の身体の一部を人形に入れなければならないこの呪術の中で、ひとりかくれんぼでは自分自身の身体の一部を入れるよう書かれている。  これが意味するところは、ひとりかくれんぼとはすなわち、自分で自分を呪う呪術であるということ。
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