独リ書ク恋慕

22/36
前へ
/36ページ
次へ
 更に現場にはヤナッシーの物と思われる足跡が残されていた。 「…ヤナッシーが自分で歩いてどっか行ったってこと? えっと…何? 夢でも見てんの? これ」 「先に名前つけんじゃなかったな…ったく。名前つけると自我持つのが早ぇんだよ…」  心底参った声で呟きながら景時が足跡をたどってみると、出かける前に開けっ放しにしていた窓へと続いていた。  窓の下にはアパートの小さな庭が広がっており、猛暑にもかかわらず大量の一面ピンクの紫陽花が元気に咲いている。 「……ないな」  とりあえず二人で汗だくになりながら紫陽花の中に隠れていないかヤナッシーを探してみたが、まったく見つかる気配がない。 「景時…ッ!」  和人の叫び声に反応する間もなく、上から振ってきた何かが肩に突き刺さる。 「……ッ」  鋭い痛みが走って反射的に肩を見ると、日光を受けて光る鏡の小さな破片のようなものが突き刺さっていた。 「…やっ…ばい…ッ」  どうやらヤナッシーは本気のようだ。上を見上げると、さらに大量の破片がキラキラと光りながら落下してくる。その間わずか一秒足らず。  見上げた時にはどうすることもできず、両腕で頭をかばう。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加